『物語の役割』小川洋子(書評)
【6月27日特記】 これは物語とは何かということを読者の立場から語った本であると同時に、小説家の立場から解きほぐした本でもある。特に第2部は京都造形芸術大学での講演が基になっており、創作ということを念頭に置いた構成になっている。
実はこの直前に保坂和志の『書きあぐねている人のための小説入門』という本を読んでいたのだが、書いてあることに共通点が非常に多い。
第2部から章題を抜き出すと、「言葉は常に遅れてやってくる」「テーマは最初から存在していない」「死んだ人と会話するような気持ち」「ストーリーは作家が考えるものではない」等々、保坂のあの本と似たようなところがたくさんある。
驚きはしなかった。多分共通点が多いだろうと思って読み始めたから。この辺りのことはこの2人の作家独特の感じ方ではなく、実はいろんな作家が指摘していることなのである。
実はこの僕でさえ何度か小説を書いたことがあり(厳密に言うと書き上げたのは1回だけだから「書こうとしたことがある」と書くのが正しいのだろうが)、僕の場合は登場人物が勝手に立ち上がってくることは1度たりともなかったが、それでももしそうなったら小説は完成する、あるいはそうならなければ完成しないだろうということは解っていた。
だから書いてあること自体には別に驚きはしないのだが、それが当代きっての小説家に語られると、これほどまでに活き活きした話になるのかと感心するのである。
面白いのは幼児期以来の著者の読書体験を綴った第3部である。この自叙伝は現在の小川洋子の作品のタッチにおもしろいくらい直結している。なんと解りやすい作家なんだろうと笑いがこみあげてくるぐらいだ。
保坂の前掲書と比べると構造が遙かに単純で読みやすい。素直な内容である。そして小川洋子のファンなら満足行くこと間違いなしではないかな?
著者に愛情が湧く本ですよ、これは。
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