『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』
【5月19日特記】 WOWOW から録画しておいた『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』を観た。昨年のキネマ旬報では第12位にランクされた作品である。トミー・リー・ジョーンズが自ら主演して初めての監督を務めている。
いやあ、こういう見ていてやりきれない気分になる作品を年に1回くらいは観たいものだ。
カウボーイのピート(トミー・リー・ジョーンズ)の仕事仲間であり親友である、メキシコからの違法入国者メルキアデス(フリオ・セサール・セディージョ)が撃ち殺される。ピートは国境警備隊員のマイク(バリー・ペッパー)が彼を誤射したことをつきとめ、マイクを拉致して彼にメルキアデスの死体を掘り起こさせる。
彼が死んだら生まれ故郷のメキシコの街ヒメネスに埋葬するというメルキアデスとの約束を果たすためである。ピートはマイクにマルキアデスの死体をヒメネスまで運ばせる。映画の中でたびたび評されている通り、マイクはクレージーな男だ。無二の親友との約束を守るというただそれだけのことが彼を犯罪まがいの行為に駆り立てる。
もう公開が終わっている映画なのでいつもよりネタバレ気味に書くが、因果が巡る作品である。
街のコーヒーショップの女は店主であり亭主であるボブを愛していると言う一方で、保安官ともピートともできている。
保安官はマイクがマルキアデスを撃ち殺したことを知りながらそれを隠蔽しようとする。
一方、夫に伴ってこの田舎町に移ってきたものの退屈で仕方がないマイクの妻。ある日、コーヒーショップの女に誘われて男たちと「遊ぶ」。その相手がピートとマルキアデス。ピートのパートナーは当然コーヒーショップの女なので、マイクの妻はマルキアデスの相手を務める。
マイクはそのことを全く知らずにマルキアデスを誤射する。
国境付近でガラガラ蛇に咬まれたマイクが、解毒のための薬草の知識のある女の家を訪ねると、それは彼が国境警備中に密入国しようとして彼に鼻の骨を折られた女だった。
──等々。
そして、意地を張って長い苦労を重ねた甲斐あって、漸くマルキアデスを未亡人のもとに届けたつもりになりかけていたピートは、あの実直だったマルキアデスに裏切られることになる。
何とも言えない結末である。因果な話である。しかし、最後にマイクがピートにかける言葉に一抹の救いがあるのである。
国境付近で一人暮らしの盲目の爺さんとか、メキシコ側の国境付近でポータブルTV見ている連中とか、メキシコで電話を繋いでくれる食堂のマスターとか、そういう脇の人物がものすごく印象深いのである。
ところで、この映画のタイトルだが、1度目の埋葬がどれだったのかが分かりにくい。2度目は死体を発見した警察による埋葬。3度目はヒメネスでピートとマイクによる埋葬。
1度目は殺してしまったマイクが証拠隠滅のためにマルキアデスを埋めたことを指すのであるが、とりあえず埋めた(buried)ということから英語の burial とは割合容易に繋がるのだが、より儀式的なニュアンスの強い日本語の「埋葬」にはなかなか繋がってこないのである。
翻訳って本当に難しいと思う。
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