『考える力をつける数学の本』岡部恒治(書評)
【2月10日特記】 思えば僕が中学生の頃から「数学なんかやって何の役に立つのか」「学校英語は実生活の役に立たない」などの批判はあった。
それらの批判に対して、僕には当時から「本当にそうかなあ」というぼんやりした思いがあったが、やがて高校・大学に進学するに至って、その思いは「実生活に直接役に立つことだけを学んでいても仕方がない。論理的に考えるトレーニングとしての教科も絶対に必要である」という確信に変わった。
実生活に直接の効果を及ぼさない科目をみっちりと身に着けることによって、他人とのコミュニケーションを図ったり物事の全体像を把握するための基礎的な能力が養われて行くのである。とりわけ現代のような複雑な社会を生き抜くに当たっては数学的思考能力は不可欠になってくる。
この著者はこの本の前半部分でかなりのスペースを割いて、僕が今書いたのと同じようなことを力説している。数学に対する偏見を払拭しようという狙いもある。そして、中盤以降では「トイレット・ペーパーの長さは何メートルか」などの例題を次々に並べて、数学的な考え方の基礎を教えている。その例題がいちいち面白い。
加えて、それぞれの例題を解くに当たって「こんな風に考えても解けるけれど、あんな風に考えたほうが簡単に解ける」という風に複数の解法を比較して発想の転換を奨めている。
一人ひとりがこういう考え方を身に着けることは、実はどんな職業に就いている場合でも陰でプラスになっているはずなのである。
しかし、この本の偉いところは、そういう理屈を肩肘張って述べ立てるのではなく、それぞれの例題と解法を並べて、単に「どうです? 面白いでしょ?」というトーンで最初から最後まで貫いているところである。
確かに面白いのである。だから難しいことを考えずに、まずこの本を読んでほしい。面白いなあと思っているうちに論理的思考力がつくのであれば、これほど嬉しいことはないのだから。
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