『芸術人類学』中沢新一(書評)
【2月7日特記】 中沢新一の著書を読んでいつも感じるのは、「何が書いてあるのかさっぱり解らないのに、凡そ何が言いたいかは確実に掴める」ということだ。
この本にしても、よくもまあここまでいろんな分野の学問を横断的に関連づけて、なんとなく体系的な書物にしてしまうもんだと感嘆はするものの、それぞれのページに書いてあることが1つひとつ理解できたかと言われれば全く心許ない、と言うより寧ろちんぷんかんぷんに近い。
もちろん中沢新一を理解して支持するにせよ批判するにせよ、そこでは少なくとも中沢新一と同等の読書量(必ずしも同一の書物を読んでいる必要はないが)と思索と検証が求められる訳で、そうなると我々一般人にはとても手を出せない書物ということになる。それでも読むのは、彼の著作が決して単なるちんぷんかんぷんで終わることがなく、一知半解であってもやっぱり面白いからである。
それは考えすぎじゃないの? うーむ、すごい深読みだ。でも、やっぱりこじつけっぽい。いくらなんでもそんなことはないだろう?──読みながらそんな風に思うことがたびたびあるのだが、でも一方で、ここまで学際的な分析は極め付きの知の遊びであり、読者の脳に与える刺激の大きさは計り知れない。この刺激の強さこそが面白さの本質なのだと思う。
僕が彼の分析を読んで思うのは、中沢新一が示したかったのは、「あれとこれが結びついてそれがこうなったから今の世界がある」みたいなことではなく、世界というものをそういう風に俯瞰的に捉えようという決意表明なのだと思う。それは歴史の分析ではなく、これからの世界をどう再認識するかという方法論を示したものなのだと思う。
だから僕は彼の書く1行1行を正しいとかおかしいとかいちいち考えたり指摘したりする気にはならない。多分それくらいの大らかさがなければこの本は読み通せないと思う。
世界は意外に繋がっているのだ。だから小さな部分に視点を集中してはいけない。「今」の全体像と「今」に繋がる流れを俯瞰的に捉えなければ、現代社会の閉塞感は破れないのではないだろうか?
やたら難しいこの本から僕が得たエッセンスはせいぜいそんなところだ。全然的外れなこと書いてるのかな? でも、それでも良いような気がする。面白い本だった。
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