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Sunday, January 21, 2007

映画『それでもボクはやってない』1

【1月21日特記】 映画『それでもボクはやってない』を観てきた。

周防正行監督は取り上げる題材がいつも独創的だ。『ファンシイダンス』で寺の小僧たちを、『シコふんじゃった』で大学の相撲部を、『Shall we ダンス?』でサラリーマンの社交ダンスを取り上げて、11年のブランクの後、今度は痴漢冤罪である。

今までの作品と違い、裁判劇ともなると映像的な見せ場は作りにくい。それだけによくぞこんなテーマに挑んだものだと思ったのだが、パンフを読むと周防監督は「“撮れる”とか“撮りたい”じゃなくて“撮らないわけにはいかない”という使命感があった」と述べている。

監督のその熱がそのまま映画を介して伝わってきた。動きの少ない映画ではあったが、圧巻という表現を用いても良いと思う。

この映画のモデルとなった事件のことは僕もよく憶えている。被告人とその支援者たちは彼らの執念の賜物とも言うべき再現ビデオで無罪を勝ち取ったのであった。

僕らはこの結果だけを新聞で知って、脳天気に「良かったなあ」などと思ったのだが、この映画で初めてその過程を知って(と言っても、この映画はその事実をモデルにしているだけで、あくまで綿密な取材に基づいたフィクションであり、語弊を恐れずに言えばエンタテインメントでさえあるのだが)、ただただ愕然とするのである。

ともかく観ていて腹が煮え繰り返るのである──刑事や検事や裁判官の心理に、そして裁判のシステムそのものに。

なんとも後味の悪い映画である。しかし、それこそがこの映画の成果であるとも言える。僕らは心してこの後味の悪さを噛み締める必要があるのではないか。

監督は、ある台詞1つを除いて現実離れした描写はしていないと自信を持っているようだ。もし、法曹関係の方がいらっしゃったら、「所詮映画だ」などと目をそむけずに、是非ご覧になった上で「あそこは現実とは違う」「確かにそういう面はある」などと逐一コメントしてほしい。

もし、たくさんの裁判を傍聴した経験のある人がいらっしゃったら、例えばこの映画に出てきた2人の裁判官はかなりデフォルメされたものなのか全くリアルな存在なのか、その感想を述べてほしい。

そういう広がりがなければ、この映画を作った周防監督の信念が報われないような気がする。

長くなるので具体名は書かないが、脇役が非常に素晴らしい。もちろん台本の素晴らしさに支えられてのことではあるが、主演の加瀬亮や役所広司もさることながら、その周りにたくさんの脇役がいて、そのひとりひとりに見事なリアリティがある。特に最初の裁判官役の正名僕蔵──パンフにも紹介がないのだが、この人何者ですか?

この映画を見終わって思ったこと──もし僕が痴漢と間違われたら絶対に走って逃げようと思う。逃げおおせなくて捕まったら裁判で非常に心象を悪くすることになるだろうが、そんなこと構わない。

やましいこともないのに何故逃げたかと問われたら、この映画を観たからだと答えよう。そうだ、このブログに書いておけば証拠のひとつになるだろう。

ともかく「やってないんだから判ってくれるだろう」などと暢気に警察に行ったりしたらその時点でもう有罪判決を受けたようなものだ。いや、その前に裁判までの理不尽で長い勾留がある。

重ねて書くが、この後味の悪さと怒りがこの映画の果実である。そんな風に僕は思った。ちょっと興奮しすぎかもしれないと我ながら思うが・・・。

権力は腐敗する。無防備に権力を信用してはいけない。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

APRIL FOOLS
Swing des Spoutniks

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Comments

TBありがとうございました。
娯楽性を損なわずにこれだけ筋の通ったドラマを描き上げた手腕に脱帽です。

そして、もしかしたらこの映画を鵜呑みにせず、より多くの事象を自らの目と耳で検証することで初めてこの作品の意義が出るのかもしれないのかも、とも思いました。

Posted by: april_foop | Monday, January 22, 2007 at 08:36

> april_foop さん

そうですね。鵜呑みもまた危険です。見て聞いて考える──ひとりひとりがそれをやれるのが成熟した社会です。この映画がその材料になれば良いなあと思います。

Posted by: yama_eigh | Monday, January 22, 2007 at 15:22

松尾スズキ・クドカン軍団「大人計画」のメンバーである、正名僕蔵は
当初『傍聴オタク』のオーディションを受けに行って、監督の目にとまった
と「シナリオ・ブック」に書いてありました。

Posted by: kusukusu | Thursday, January 25, 2007 at 10:55

> kusukusuさん

そーですか、大人計画だったんですか。
どーもありがとうございました。

Posted by: yama_eigh | Thursday, January 25, 2007 at 11:25

こんにちは。TBさせていただきたいのですが、
どうもこちらのTBが反映されないのでコメントのみで失礼します。

私はここ10年の日本映画では最高傑作ではないかと
思うぐらい素晴らしい作品でした。
一度目はストーリーを追うのに気を取られたので、
再度劇場で見たのですが、よく見ると動きがないどころか、
冒頭からラストまで、映画としてのダイナミズムに満ち満ちて
いたと思います。裁判所外のシーンでは常にカメラが動き、
法廷ではカメラを固定した代わりに会話に動きを見せていました。
二時間半を一気に見せ切るのも、このダイナミズムがあったからで
しょうね。

私は一度だけ裁判を傍聴したことがあるのですが、現実はこの
作品よりもドラマめいていました。
婦女暴行未遂の被告が逮捕時にボコボコにされたから、
量刑をどうにかまけてくれというありえないやりとりがあったもので・・・。
ともあれ、映画がきっかけで、裁判制度に世間の関心が向けばいいですね。

Posted by: 丞相 | Sunday, February 04, 2007 at 13:52

> 丞相さん

力のこもったコメント、並びにTBありがとうございます。
TBは管理人が承認してから公開される形になっているだけでちゃんと届いてますよ(すでに承認して公開しました)。で、逆TBさせてもらいました。

僕も屈指の名作だと思います。次に見たときは是非カメラの動きも確認してみます。

Posted by: yama_eigh | Sunday, February 04, 2007 at 17:39

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