『スクラップ・ヘブン』
【12月30日特記】 WOWOW で録画しておいた『スクラップ・ヘブン』を観た。李相日監督。『フラガール』と同じ監督とは思えない。もちろんこっちのほうがずっと良い。ただし、世間には『フラガール』のほうがずっと良いと言う人もたくさんいるだろう。
バスジャックされた。乗客は3人。
ひとりは刑事(加瀬亮)、と言っても総務課でデスクワークしかしたことがない。いよいよ自分の真価を発揮する絶好のチャンスだが、何もできないうちに犯人はピストル自殺してしまう。
もうひとりはトイレ掃除を生業とする青年(オダギリジョー)。犯人に肩を撃たれて倒れる。
最後のひとりは薬剤師(栗山千明)。右目が義眼。バスの中で狼狽して、その義眼を落としてしまい、犯人の手許までころころ転がる。実は家で爆薬を調合している。
その3人が後にめぐり合う。まず加瀬とオダギリ。2人は復讐代行業を始める。うまく行く。でもそんな「草の根運動」では何も変わらないことに気がついた2人は──。
「想像力の欠如」という言葉をキーワードに、行き場のない閉塞感がじりじりと綴られる。映像も台詞もとてもスリリング。オダギリの父や加瀬の職場など織り込まれているエピソードもよく練りこまれている。屋上から遺灰を撒くシーンは圧倒的な印象があった。
重ねて書くけれど『フラガール』という非常に図式的なストーリーを撮った人の前作とは思えない。得体の知れないものを描こうとしているところが野心的である。
画に力がある。話に余韻がある。そして救われないまま映画は終わる。それが、この映画の力である。図式に嵌らないゴツゴツした、ハラハラさせる映画だった。
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