『荻窪ルースター物語』佐藤ヒロオ(書評)
【12月14日特記】 この店には何度も行っている。会社の後輩がメンバーの1人として出演すると言うので「'70年代歌謡曲の夕べ」を聴きに行ったのである。それですっかりハマってしまってその後何度も足を運んだ。ただし、このバンドのこの演目の時にしか行ったことがない。
そういう意味では僕は、この本の著者でありこの店のマスターである佐藤さんが期待する客には育っていないということだ。育たないまま転勤で東京を後にしてしまった。それを思うと佐藤さんに申し訳ないような気がする。
変なマスターである、佐藤さんは。「私が当店の総支配人アントニオ・ロマーリオです。気軽に佐藤さんとお呼びください」と佐藤さんは言う。
開演前、及び第1部と2部のインターバルに自ら舞台に上がり、珍妙なアナウンスやマジック・ショー(いずれも毎回ほぼ同じですが)を繰り広げる。それを笑いながら見ているとただの面白いおじさんのように思ってしまう。
だが、この本を読むと、この人が如何に堅固な思想性を持ち、如何に純粋な信念に基づいてお店を運営しているかが初めて解る。
ひとことで言って、客を育てミュージシャンを育て、音楽を聴く環境をより良いものにしたいのである。佐藤さん、ごめんなさい。僕は佐藤さんの思いに充分応えられるところにまで至りませんでした、などと佐藤さんに謝りたくなってくる。
その一方で、ま、別にそんな大層な扱いをしなきゃならないほどの大人物でもないかな、という気もしてくる。──そこが佐藤さんのなんとも言えない魅力なのである。
この本には、佐藤さんの音楽に対する愛と信念、そしてそれを実現するための事細かな苦労話とその結果手にした経営ノウハウが、余すところなく書き綴られている。愛も信念もないミュージシャン/客/経営者に対しては結構キツイことも書いてある。
信念のある人特有のウザったい感じ、悪く言うと独善的な匂いもないではない。だが、多少ともそういう色があるのが脛に傷を持つ身というものだろう。
なんであれ、佐藤さん、あなたは前向きな人だし、とても楽しい人だ。今後も頑張ってその調子で3号店、4号店と活躍の場を広げて行ってください。僕もいつしか佐藤さんの期待に応えられる一人前の客になって、またルースターを訪ねたいと思ってますから。
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