『ロングテール』クリス・アンダーソン(書評)
【10月6日特記】 仕事のために読んだ本なのだが大変面白かった。そういう本に出会えるのって実はとても貴重な体験であり、嬉しい誤算である。
とかくビジネス書というものは見掛け倒しで中身の薄いものであることが多い。たいていは個人的な成功体験や単なる思いつきに支えられた(あるいは、がんじがらめになった)狭量かつ牽強付会なものであったりする。
それに対してこの本は、ロングテール理論の提唱者である(統計学の理論からロングテールという用語を持ってきてマーケティング理論に移植した)クリス・アンダーソン氏自らが著者であることが第1のセールス・ポイント。そして彼が長年ワイアード誌の編集長として若者文化に触れてきたという経験と感覚を十全に活かしているということが第2のセールス・ポイント。さらに、決して片手間に書かれたものではなく、何冊もの専門書を読んで勉強し、時間と手間をかけて資料を集め、綿密に検証した上で構築された理論であるところが第3のセールス・ポイントとなっている。
だから非常に説得力がある。そして面白い。
昨今巷間で語られているロングテール理論なるものがよく取り違えているのが、単なるテール信仰になってしまっているところである。ロングテール理論と言いながら、実際のところはビッグヘッド&ロングテール理論なのであって、ニッチ商品の長い尾だけを揃えても、顧客は寄ってこないし、たまたま訪れた客は戸惑うばかりであり、決して売上げは増大しない。──さすがに提唱者自らの著書であるだけに、そういうこともきっちり書き込んである。
これは大変面白くためになる本である。はたして bk1 の経営者の皆さんもお読みになったのであろうか?
(註: 初出がオンライン・ブックストア<bk1>への投稿であったために、こういう結びになっています)
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