映画『シュガー&スパイス 風味絶佳』2
【10月31日追記】 映画『シュガー&スパイス 風味絶佳』に覚えた違和感は一体何なのか、ずっと考えていたのだが、突然答えを得た。
『風味絶佳』という短編集は、肉体労働に従事する男の魅力に焦点を当てた作品群である。
ここに収められた6篇の小説に登場する男たちの職業はそれぞれ、鳶職、区の清掃協会の作業員、「ガスステイション」勤務、引っ越し屋、貯水槽等の清掃作業員、火葬場勤務。
山田詠美の態度は、ネガティヴに見られがちなこれらの職業を再評価しよう、などといった理屈っぽいものではなく、如何にも「なんでー? カッコいいじゃん。私、すごく好きだな、そういう男」みたいな感じである。
表題作「風味絶佳」におけるガソリンスタンド勤務というのは6つの職業の中では一番肉体労働色が薄いかもしれないが、それでも決してこの共通色から外れるものではない。
肉体を駆使して働く男たちの(性的)魅力を、そして、そういう男たちに魅かれる女たちの心の動きを絶妙の風味を添えて描き出したのが、この短編集なのである。
ところが、映画では若い柳楽優弥を起用したために、肝腎のその要素がほとんど消えてしまった──それがこの映画に覚えた違和感だったのである。
小説に出てくる志郎はしっかりと自立した男である。一人前の大人の男、とまでは言えないかもしれないが、少なくとも自分の考えで自分の道を選び取り、自分の身体を動かして自分の生活を組み立てている男である。その自立した男がグランマにだけはちょいと頭が上がらない、という設定がスパイスになっているのである。
ところが、主人公の年齢を下げ、柳楽優弥というひ弱なイメージの俳優をあてがったがために、志郎は単にヤワで未熟な坊やになってしまったのである。
柳楽優弥のために設定を少し、ストーリーを少し、と言った具合にいろいろと手を入れる必要が出てきたのである。
そして、そういう風に手を入れた結果、映画としての出来としては、あくまで柳楽優弥を中心に考えればちゃんと辻褄が合っている。
しかし、それは原作の小説が持っている一番のエッセンスを台無しにしてしまったのではないか。
もちろん小説と映画は別個の作品である。
だが、僕にとってはこのツケは致命的に大きかったような気がする。
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