高護先生に最敬礼
【9月22日特記】 「70年代歌謡ポップス・セレクション~ユニバーサル編」が届いた(9/18の記事「贅沢な買い物」参照)。小川みきの『マイ・ロスト・ラブ ~初めての愛』を久しぶりに聴いた。まだEPレコードは持っているが最早プレーヤーがないので聴けなかったのである。
歌詞カード(と言うか、冊子)の表紙と2ページ目に小川みきの大きな写真が載っている。他にはそういう扱いをされている歌手はいない。監修・選曲・解説を担当した高護(こう・まもる)氏が如何に小川みきに入れ込んでいるかがよく判る。
そして、高氏の解説を読むと泣けてくる。
では多くのセールスを記録した作品のみが名曲であって、売れなかった作品がすべて駄曲か。
答えはいうまでもなく「NO」である。
歌謡曲に「隠れた名曲」や「知られざるヒット曲」は星の数ほど存在する。
──この辺りに、70年代を代表する聴き手としての矜持が溢れ出している。そして、『マイ・ロスト・ラブ』のライナーノートは姉妹本である「歌謡曲名曲名盤ガイド1970s」と同文である。
小川みきとしてのデビュー曲となった「マイ・ロスト・ラブ ~初めての愛」は歌謡ポップス史上に燦然と輝くまさに名曲中の名曲。
全く同感、と言うより、高氏の見事な耳に敬意を表する。
このCDには小川みきの2~4曲目である『雨の中の口づけ』『燃える渚』『甘い出来事』も収められている。もちろん僕はそれらのレコードもかつて持っていたが中古レコード店に売ってしまった。ただし、その3曲については筒美京平作品集のコンピレーションCDに収められている。僕は去年 TSUTAYA で借りてきてちゃんとデジタル音源で保存している。
筒美京平による3曲も完成度の高い良い曲だと思うし、それからこのCDには収められていないが『甘い出来事』のB面に入っていた『乱暴な少年』も僕は大好きなのだが、しかし、それらも三枝伸作編曲の『マイ・ロスト・ラブ』と並べるとただの歌謡曲でしかない。
そんな風に書くと、「ふうん、そんな名曲なら買って聴いてみようか」と思う奇特な御仁もおられるかもしれないが、もし初めてお聴きになるのであれば、あまり期待し過ぎないほうが良い。「うん、悪くない」くらいには思うかもしれないけど、今聴いても大して驚かないと思う。
1972年という、あの時代に照らしてみて、初めて目も眩むような輝きを発する名曲となるのである。
当時あんな曲は日本にはなかった。ベースのライン、ギターのフレーズ、女性コーラスとブラスとストリングスの被り方。そして、曲全体の構成。間奏であそこまで盛り上がる曲がそれまでにあったか?
高氏はこう書いている。
当時流行りつつあったニュー・ソウルの要素を本格的に導入。
うん、うまいこと説明するねえ。
そして、小川みきの歌唱力。高音部の長音でちょっとフラット気味に入る癖はあるが、ここに収められている女性アイドルたちの中では飛び抜けて巧い。特に僕はこの声質が好き。高氏も書いている。
パンチの効いた小川みきのヴォーカルは健在である。
そう、今では全く使われなくなった「パンチの効いた」という表現が最適である。
高氏のライナーノーツは小川みきとチェルシア・チャンに紙面を割きすぎて最後は足りなくなったようで、15~17曲目のサミー、サイ・スーリン、林美枝子の3人についてはひと言も触れていない。それでも良い、と高氏もきっと思ったのだろう。
最後の2曲『自由な二人』(ハッピーとジョー)、『エンドレス・ラブ ~愛は永遠に』(ベイ・シンガーズ・ファイブ)もまた三枝伸の作編曲である。高氏の三枝氏に対するリスペクトぶりが感じられる。
三枝伸はフィンガー5のプロデューサとして知る人ぞ知る存在である。ただし、フィンガー5のヒット曲はほとんど阿久悠・都倉俊一コンビか阿久悠・井上忠夫コンビによるもので、三枝作品はアルバム収録曲や売れなくなってからのシングルでしかない(これらの曲も一応 TSUTAYA で借りてきて聴いてみた)。
そして、その前にはデイ・アンド・ナイツというGSでオリジナル曲をやっていた。
このGSのCDも僕は TSUTAYA で借りてきて聴いてみた(探せばそういうのも置いてあるのである)。モータウン・サウンドとムード歌謡が幸せな結婚をしたみたいな曲想なのだが、僕としては少し「ムード歌謡の尻に敷かれている」感がして、聴くだけで録音せずに返却した。
しかし、ここに収められている『エンドレス・ラブ』は凄いよ。辛うじて聞き覚えがあって、「ああ、この曲も三枝伸だったのか」とえらく感動したのだが、このパーカッションとベースの動きと言い、Ⅴ7sus4 →Ⅴ7の進行と言い、これはもう完全に 5th Dimention そのものである。
しかし、それにしても、小川みき以外に16曲も入っていながら、僕が辛うじて聞き覚えがあったのは前述の『エンドレス・ラブ』と神田広美の『ジャスミンアフタヌーン』だけである(神田広美の歌だと、吉田拓郎が作った『ドンファン』が好きだったなあ)。
僕もどちらかと言えば当時から割合マニアックな聴き方をしていたほうだと自負しているが、マニアは自分より遥かに上を行くマニアに出会うとただただ最敬礼するしかないのである。
高護先生に感謝!
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