『テレビはなぜ、つまらなくなったのか』金田信一郎(書評)
【9月8日特記】 この本の内容は主題の「テレビはなぜ、つまらなくなったのか」よりも副題の「スターで綴るメディア興亡史」のほうがよく要約している。「日経ビジネス」の連載記事に筆を入れて出版したらしいが、いかにも1回読み切り記事の集積という感じがする。
内容はそれなりに面白い。僕自身は同じ業界にいるので知っている話もいくつかあったが、そうでない人はもっと面白いと思うに違いない。
長嶋茂雄に始まって力道山やら山口百恵やら、大橋巨泉やら北野武やら、鹿内春雄やら角川春樹などと、1章=1人のペースで一世を風靡したTVのスターやスタッフを取り上げて行く。
本人や(本人が取材拒否したり故人の場合は)周辺へのインタビューを通じて、なぜ彼らがその時代に受けたのかを解き明かして行く。ただし、それらを通して「では、なぜテレビはつまらなくなったのか」という明確な結論が著者によって提示されているわけではない(勿論そんなものを簡単に結論づけようとすると多分失敗するだろうが・・・)。
単純なインタビュー記事の連結であって、著者の考えがそこここに展開されるわけでもない。「彼らはこういうことによって時代の寵児となった。それと今を比べれば、なぜテレビがつまらなくなったかは何となく想像がつくだろう」というのが、(好意的に解釈すれば)著者の結論ということになる。
こういう構成にすると「テレビがなぜ面白くなくなったか」よりも「あの時代、テレビはなぜあんなにも面白かったのか」のほうが際立ってしまうのは避けようがない。だから読者もそういうつもりで読んだほうが良い。そういうつもりで読んだほうが面白いし、テレビがつまらなくなった原因をすぐさまつきとめるつもりで読んでも肩透かしをくらうだろう。だが、そこそこに示唆に富んだ本ではある。
TVがつまらなくなったのは決して特定のカリスマがいなくなったからではない。
では、何故か? それは(僕らを含めて)この本を読んですぐに結論が出るものではないだろう。それはこの本を読んだ人たちがこれから考え続けて行くことなのである。
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