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Saturday, August 26, 2006

映画『ラフ』

【8月26日特記】 映画『ラフ』を観てきた。

映画監督にはアイドル映画を撮れる(撮る)人と撮れない(撮らない)人がいる。そして、アイドル映画を撮れる監督には単に器用貧乏で終わる人と、アイドルとシンクロして映画自体を昇華させることのできる人がいる。大谷健太郎はちょっと微妙なところに来ているのではないかなと思った。

アイドル映画を撮る限りはアイドルの魅力を最前面に押し出してやらなければならない。つまり、例えばカッコイイ男性アイドルならよりカッコよく、可愛い女性タレントならより可愛く映してあげなければならない。そうでなければアイドルを起用する意味がないからだ。

しかし、それだけで終わってしまうと単なる芸能プロダクションの使い走りである。いや、芸能プロのほうもそれではおいしくない。

できればアイドルに主演男優/女優賞を獲らせてやりたいのは勿論だが、映画自体がどっかの監督賞や作品賞にノミネートされるのも効果的だ。そうすると後世“『○○○○』(映画名)の××××(俳優名)”とセットで語られるようになることによってアイドルに箔がつくのである。

さて、大谷健太郎監督はこの作品でそれを実現できただろうか?

大谷監督はPFF出身で『とらばいゆ』(2002年キネ旬10位。これは観ていない)で名を成した人だ。僕はその後の『約三十の嘘』(2004年同75位)と『NANA』(2005年同15位)を観て、これはなかなかしっかりした監督だという認識を持つに至った。

考えてみれば2作続けて漫画が原作だ。この後には12月公開の『NANA2』が控えている。
そして、主演の長澤まさみも前作の『タッチ』(2005年同33位)に引き続いてのあだち充作品である。

僕は犬童一心監督の『タッチ』とこの『ラフ』を比べると前者に軍配を上げたい。
長編漫画を2時間の映画に収めるのは並や大抵のことではないはずだ。その処理の仕方として前者のほうが巧みであったと思う。

そして、話は変わるが長澤まさみが主演した映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年同26位)と綾瀬はるかが演じたTV版とを比べると、後者のほうが圧倒的に良かったと思う。1クールドラマにすると本編尺として合計正味8時間前後が使える訳で、そういう意味で圧倒的に有利なのである。

長編の原作を2時間に削るというのはそれほどハンディキャップのあることなのである(しかし、あだち充の作品ってどれもこれもみんな同じですね。ファンはきっと「そんなことない」って言うんだろうけど)。

さて、そんなハンディキャップのある中、映像的には非常に頑張った作品だった。

冒頭東宝のマークに加山雄三の曲がかぶって始まるというお遊びがあって、その次がプールのコース・ロープの真上からのアップである(一瞬、何かな?と思ってしまった)。そして、コース・ロープに沿ってカメラがスーッと滑る。さては天井にワイヤー張ったかと思って見てたらそこから飛び込み台に向かってカメラがグンッと上がってくる──おっ、この動きはクレーンである。

他にも飛び込み競技用の飛び込み台に立つ2人を前からのショットに収めておいて、クレーンで上から下へ舐めて行く動き。

長澤まさみにくちづけようとして寄って来る速水もこみち。最初は速水の姿はなくて、速水の目線の高さからのカメラ。そこへ速水がフレームイン。速水の肩越しに見える長澤の顔を横切る何かの影。

そして数々の水中撮影による非常に幻想的なシーンもあったし、泳ぐ人間を後ろから同じスピードで追う水上カメラも圧巻であった。

台詞も良かった。映画版『電車男』(2005年同35位)で一躍名を馳せた金子ありさ。ダイアローグ・ライターとしてはなかなか優秀である。監督とかなり話し合って原作を崩していったみたいだが、やはり組立てよりも台詞に真骨頂を発揮する人のようだ。

原作自体がとんでもない青春ドラマなので、もう臭さ全開の良い台詞が満載である。阿部力が「嫌な奴になっただろ」なんて言うあたり、ちょっとハッとしてしまった。

さて、長澤まさみについては昔「おっちゃんの長澤まさみ論」に書いたとおり、このコの演技の芯は“泳ぐ目線”である。今回も泳ぎまくって非常に良かった。この目だけでかなり巧い演技をする。

そして、何よりも凄いのは、観客を唸らせるような名演をしていながら、一方でどんな表情をすれば自分が一番可愛いかを見事に(恐らく無意識に)心得ているところだ。それでこそトップ・アイドルである。

共演の速水もこみちは“好演”と言っても良いが、長澤の演技に比べると明らかに幼い感じがする。

さて、あらすじ抜きでいろんなこと書きすぎてしまったが、長澤まさみの魅力を全面展開したという意味では映画は成功。映画自体は昇華できただろうか?

結論としては結局原作を超えるまでには至っていない気がする。良い青春映画ではあるけど、そこがこの映画の限界ではないかな。大谷監督、器用貧乏に終わらないためにも『NANA2』の次は自身のオリジナル脚本でやりましょうよ。

ところで、市川由衣をこの映画で初めてまともに見たのだが、本当にこのコで大丈夫なんだろうか、『NANA2』のハチ役。宮﨑あおいの後だけにかなり荷が重いんじゃないかな?(宮崎あおい)


【8月25日追記】 昨日の記事ではアイドル映画論にスペースを割きすぎて、肝心のこの映画について書き漏らしたことが多いので、長くなるけどいくつか散発的に補足。

最初のほうで登場人物のプロフィールを一気にテロップで紹介したでしょう? ああいう手法はどうかな、と思ってしまうんです。

確かに長い原作を2時間に削るための優れたアイデアです。

あれをやらずに説明的な台詞を散りばめたりするとドラマとしては興醒めになる。短い映像をたくさん挿入して説明する手もあるけど、観ているほうは大抵そのスピードについて行けない。だから、あの手は正解なんだけど、どうも映画であれをやられるとちょっと抵抗を感じてしまうのは僕だけなのかな?

次。カメラワークで特筆すべき点として、プールのコースに対するカメラ・アングルが挙げられる。

  1. コースに対して平行
  2. コースに対して垂直

この互いに直交する視点が非常に目立った。画は非常にダイナミックになった。

最後。終盤の阿部と速水が水泳選手権で対決するシーン。ゴールタッチの瞬間を映さずに長澤まさみの表情の変化だけでそれを観客に伝えた。これは見事だった。

大谷監督はこの同じ手法を実は『NANA』でもやってるんですよね。女優の演技力に全幅の信頼を寄せているからこそできるカット割り。そして、宮﨑あおい/長澤まさみだからこそ、それに応えられたんだと思います。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

アロハ坊主の日がな一日

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