ドラマW『4 TEEN』
【8月19日特記】 WOWOW から録画しておいたドラマW『4 TEEN』を観た。石田衣良の直木賞受賞作のドラマ化。監督はにっかつロマンポルノ出身で、『ヴァイブレータ』(これは残念ながら観ていない)や『やわらかい生活』(これは観た。映画評はここに書いた)で知られる廣木隆一である。
このドラマが2005年度の日本民間放送連盟賞のドラマ部門の最優秀賞を受賞したことからも判るように、ドラマWシリーズはなかなか程度の高い作品を輩出している。
オープニングは月島辺りの商店街。自転車で走る少年の後姿をカメラが俯瞰で追う。交差点で他の少年と合流し、さらにもう1人が合流して3人が自転車で走る後姿をカメラが俯瞰のままずっと追う。
この画がとても美しい。良い映画というのはそういうものでファースト・シーンから期待を抱かせてくれるのである。
まっすぐに伸びるアーケード。単純な遠近法の中を滑らかに遠ざかって行く少年たち。そして一定の距離を置いて高い位置からのカメラがやはり滑らかに追って行く。少年たちの自転車がゆっくりと曲がる。カメラもあとからゆっくりと曲がる。
バックで流れているのははっぴいえんどの『風をあつめて』。ぴったりの選曲だ。──ある意味で都市の美しさを賛美した歌。
そう、このドラマは都市の風景の美しさを本当に見事に心得ていて、目の覚めるような画を次々と繰り出してくる。──商店街、高速道路、ビル、堤防、橋・・・。
やがて少年たちは赤坂見附を経て渋谷に到着する。彼らの友人で、ウェルナー症候群という難病で入院している少年の誕生祝いを探しに来たのだ。彼らは全員14歳。
そうか、『4 TEEN』というのは「14歳」と「4人のティーン」を掛けてあったのか、と初めて気づく(原作は読んでなかった)。しかし、惜しいな。僕なら『4 TEENS』にするけどな・・・。
閑話休題。ウェルナー症候群は早老病という別名の通り老化が異常に早く進む病気らしい。入院している少年は白髪交じりで皮膚にも皺が多い。
3人の少年は彼のためにコギャルを調達しようとするが悉く失敗。結局3人でお金を出し合って道玄坂にいた風俗嬢と思われるお姉さんを雇って病院に連れ帰る。彼らは1台の携帯を病室に隠して外に出て、2人の“実況”に聞き耳を立てる。ところが、早老症の少年は「薬の副作用で立たないんだ」と言って泣き出す。
以上が冒頭のエピソードである。
やがて早老症の少年も退院し、以後ずっと4人で行動する。今度は4人が自転車で走るシーンが出てくるが、これは道の向かい側からのロング・ショットでこれまた美しいシーンである。バックで鳴っているのは今度も同じはっぴいえんどの『夏なんです』である。
その後いくつかのエピソードがある。
1人の少年は不登校の少女に学校からの配布物や宿題を何度も届けに行く(家が近いというだけの理由だ)。両親は共働きで彼女しか家にいない。で、家には入れてくれるが彼女は部屋から出てこない。2人はドア越しに携帯で話す。
1人の少年は父親がアルコール依存症で、酔うと必ず彼と弟に暴行を働く。
もう1人の少年は家がもんじゃ焼き屋で、4人は何かあるとかならずここに集まってもんじゃパーティを開く。店主で少年の母親役の中尾ミエがとても良かった。
4人は花火大会を見るために訪れた廃屋ビルの屋上でホームレスのおっちゃん(菅原文太)と会う。病気で死期が近いのではないかと思われるおっちゃんと少年たちの交流がある。
アルコール依存症の父親が死に、少年が警察に引っ張られる。彼と弟が父親を外に放り出したあと、父親は嘔吐物を喉に詰めて死んだのだ。刑事役の寺島進がいつもどおり個性を光らせていた。
これらのエピソードによって僕の心に力強く刺さったのは、少年たちが自分以外のことを思いやっているさまである。フィクションであるにも拘らず、「日本もまだまだ捨てたもんじゃない」などと思ってしまった。
心温まるメッセージが込められた映画だ。そして、このメッセージがすんなりと伝わるのは構図の力、色彩の力、音楽の力、台詞の力、物語の設定の力、役者の動きの力などが全部巧く噛み合ったからに他ならない。
映画は総合芸術であるということを思い知らせてくれる作品だった。
クライマックスで2度流れるジョン・レノンの『ジェラス・ガイ』も非常に効果的だった。
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