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Saturday, July 01, 2006

映画『花よりもなほ』

【7月1日特記】 映画『花よりもなほ』を観てきた。

何度か書いたことだが、僕は時代劇を観ない。もっとも北野武の『座頭市』や宮藤官九郎の『真夜中の弥次さん喜多さん』みたいなインチキ時代劇は観るのだが・・・。基本的に現代劇が好きで、第2次世界大戦ものや時代劇を見るために映画館には行くことはまれである。

もちろん別に時代劇を見たら眼が潰れると思っているわけではなく、そんなものを観るヒマとカネがあるのならそれを現代劇に廻したいというだけのことである。

ところが、「その節を曲げて、この映画は観るべきである」と言ってくれた人がいて、他の人なら黙殺するところだが、その人の鑑賞眼については僕は一目置いているので今回は素直に従った。ま、「映画の日」ということもあって1,000円で済んだしね。

是枝裕和監督彼はもともとドキュメンタリストである。去年の5月4日にフジテレビのNONFIXで放送された『シリーズ憲法~第9条・戦争放棄「忘却」』はめちゃくちゃ面白くて、社内外でかなり評判になっていた。

彼の映画を初めて観たのは1995年12月10日。『幻の光』だった(江角マキコと浅野忠信の舞台挨拶があった)。有望な監督のデビュー作からちゃんと押えていたわけだが、第2作以降うまくタイミングが合わず、次に見たのは一昨年の『誰も知らない』だった。その間、彼のプロデュース作品である『カクト』と『蛇イチゴ』については映画館と WOWOW とでそれぞれ観ている。

この映画、冒頭のシーンから強烈な印象があったのは美術のすごさである。下町の長屋のなんとまあボロいこと。今にも崩れ落ちそうだし、めちゃくちゃ汚い。着物もボロボロ。髪の毛もボサボサ。「美術」と言うよりは「汚術」であるが、多分本当にこんな感じだったんだろうなあと納得する。そして、蝋燭や行灯の光の具合もとても本物らしかった。

岡田淮一演ずる主人公の青木宗左衛門は亡父の仇討ちを果たすために江戸に出てきたが、剣術の腕はからっきしダメ、読み書き算盤と囲碁と逃げ足の速さくらいしか取り得がない。せっかく親の敵(浅野忠信)を見つけても物陰から見つめるだけという意気地のなさである。

僕はTBS『タイガー&ドラゴン』で初めて認識したのだが、岡田淮一って本当に巧い役者である。意気地のなさ・優しさと武士(もののふ)としての矜持がちょうど良い具合に配合されていた。

そして、同じ長屋に暮す連中が綺羅星のごときオールスター・キャスト。

古田新太と木村祐一が特におかしいのだが、浪人の香川照之、武家の子連れ未亡人・宮沢りえ、一方、町人の未亡人(かな?)の絵沢萌子、医者の原田芳雄、平泉成と田畑智子の父娘、侍嫌いの加瀬亮、紙くず拾いの上島竜兵、その上島とともに田畑智子におか惚れしている千原靖史、代書屋の中村嘉葎雄、そして長屋の大家・國村隼など、めちゃくちゃ個性的な人ばかりで、それぞれに悩みがあったり恋があったりドラマがあったり、どれもなかったりする。

他にも石橋蓮司やらトミーズ雅やらチャントリの頭(南方英二)やら、よくまあこんだけ個性的なキャストをそろえたものである。

そして、時は1701年。その年の12月には赤穂浪士の討ち入りがあった年で、宗左衛門の長屋にも寺島進や遠藤憲一(これまた個性的な2人!)など赤穂浪士のうちの何人かが身を潜めたり出入りしたりしている。

仇討ちができない宗左衛門と実際に仇討ちを果たす四十七士(四十六士?)という対比が却々巧い。

まあ、とは言え、あまり事件らしい事件が起こらない映画である。終盤になって漸く大きな展開がある(そして、その後に討ち入りがある)のだが、この辺りの筋は知らないで見たほうが絶対に楽しめる。結構爽快で「胸のすく」展開である。人生に希望を与えてくれる味付けである。

脚本も良くできているし、貶しどころがない面白い映画である。いや、その前に「良い映画である」と言うべきか。

もっとも、この映画を見て「そうか、人生あんな風にいい加減にやって行けば良いんだ」という短絡的な、と言うかひん曲がった教訓を得てしまう人がきっといるはず。ま、仕方がないか。映画ってそんなもんだ。

「見て良かった」と思える映画だった。基本的に昔の人の心情を描いた作品ではあったが、劇中のいろんなことを自分になぞらえてみたりもした。見終わった後いろいろ考えさせらる映画だった。

ただし、過去を舞台にして過去を描いた映画よりも現代を舞台にして現代を描いた映画を見たいという信念は一寸たりとも揺らぐことはなかった。今後も滅多に(映画館でお金を払って)時代劇を観ることはないと思う。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

アロハ坊主の日がな一日
It's a Wonderful Life

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[ 花よりもなほ ]@銀座で鑑賞 [ 誰も知らない ]の是枝裕和監督の最新作。 最近は、プロデューサー業をメインにやっているようだが、 もっと撮ってほしいね。ウディ・アレンのようなおじいち ゃんでも頑張って撮ってるんだから。せめて毎年1本は撮っ てほしい。本作を観て、その気持ちがまた一段と高まった。 パンフレットは、ぜひ買いである。(といっても、もう劇場 公開終わっちゃいました) ... [Read More]

Tracked on Monday, July 10, 2006 at 09:00

» Samurai [Tokyo Bay Side]
『花よりもなほ』 剣の腕はからきしダメだが、逃げ足の速さは天下一品。この映画はそんな“へっぴり侍”青木宗左衛門(岡田准一)の仇討ちをテーマにした新感覚の時代劇です。全体を通して観ると決して派手な作りではなくハラハラドキドキもしません。しかし“糞を餅に変えた”その言葉通り、仇討ちする事よりも仇討ちしない人生を選んだ宗左の心の成長は優しく温かい気持ちにさせてくれる作品でした。 [:URL:] 『花よりもなほ』... [Read More]

Tracked on Sunday, July 16, 2006 at 12:45

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