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Saturday, June 03, 2006

映画『嫌われ松子の一生』

【6月3日特記】 映画『嫌われ松子の一生』を観てきた。圧巻だった。その一語に尽きる。

『下妻物語』に続く中島哲也(なかしま・てつや)監督作品。

僕はCM出身の監督は大したことないという先入観を持ってしまう傾向がある。15秒/30秒で表現する瞬発力はあっても、2時間の映画をまとめる持久力、と言うか構成力はないという思い込みである。

例えばこの1年間に観たCM制作出身の監督作品で言えば、『好きだ、』のようにこの思い込みを完璧に裏切ってくれる映画もないではないが、『SURVIVE STYLE 5+』のように見事に裏付けてくれることのほうが少なくない。

だから、前作『下妻物語』が公開された時も迷った挙句見なかった。

ところが、この『下妻物語』、頗る評判が良かった。キネマ旬報では2004年の3位に選ばれた。アミューズが手がけた映画で初めて黒字になった映画だとも聞いた(これは本当なのかどうか確かめていないが)。

それで昨年 WOWOW で放送された時に初めて観た(もっとも中島作品としては1988年に『バカヤロー! 私、怒ってます』を見ているのだが、これは4監督によるオムニバスだったこともあり全く印象に残っていない)のだが、あまりの素晴らしさに度肝を抜かれた。

見事な配役としっかりとした筋と台詞。そして何の衒いもなく使いまくったCGによる、何とも表現しようのない麗しい映像!──そして、この褒め言葉はそのまま『嫌われ松子の一生』にも適用できる。

この監督の特徴として恐らく誰もが挙げることは色使いだろう。色の豊富さ、色調のバラエティ。ポップであったりファンタジーであったり、そしてノスタルジックであったりスプラッタであったり──その独特の色使いに加えて、僕は画の奥行きの深さを挙げたい。

それは現代の東京ではありえない満天の星空や、まっすぐに伸びる1本の川べりの道などの風景に対するカメラアングルの問題ではなく、まるで飛び出す絵本のように多層的に構築された1つひとつのフレーム構成の入念さである。

この監督は明らかに撮る前から画が鮮やかに頭に浮んでいる。もちろん色調も画質も。そしてその奥行きのある構図も。そこが並の監督との違いである。くどくど解説しても解ってもらえないだろう。まあ、見たまえ、この映像を!

そして、この映画はミュージカルと呼んで差し支えのない構造になっているのだが、使われている楽曲の1つひとつが本当に素晴らしい。

松子が幼少の頃から歌っていた『まげてのばして』は童謡に書き足してアレンジしたとのことだが、映画を見終わった後もいつまでも耳に残っている。少女の独唱からオーケストレーションまで多彩なアレンジも変幻自在である。

トルコ(今で言うソープ)のシーンで BONNIE PINK が歌う『LOVE IS BUBBLE』もキャッチーなメロディで非常にクール。そして映画のシーンとぴったりマッチしている。観客席でビートに合せて自然に体が動いてしまう。

中谷美紀扮する松子がキュートに踊る『HAPPY WEDNESDAY』もなかなかポップな名曲。

そして、歌謡ショーでアイドル歌手が歌う『USO』なんか、本当に昭和40年代の隠れた名曲なのではないかと思ってしまう出来である。これは詞が近田春夫、曲が馬飼野康二だそうな。いや、参った。んで、このアイドル歌手の役名が「小川マリア」なのだが、これは「オー、モーレツ!」の小川ローザを思い出させるよりも、僕には小川みきと安西マリアの合成のように思えてならない。

最後にこれらの曲を全部1つに繋げてメドレーにしているのだが、これまた見事である。

そして、既成の楽曲でも天地真理の『水色の恋』(歌・中谷美紀)や中山千夏の『あなたの心に』(こっちはオリジナル)などが非常に効果的に使われている。

さて、ストーリーは結構宣伝されているのであまり書く必要もないかもしれないが、かなり悲惨な話である(「あの悲惨な原作がなんでこんなポップな映画になるのか?」という意見もよく聞く。残念ながら僕は原作を読んでいない)。

不器用でダメ人間の松子(中谷美紀)が、中学の教師時代に生徒の窃盗の罪をかぶったのをきっかけに、トルコ嬢→殺人→服役→ヤクザの女などと、どんどん堕ちて行く話である。

松子は次々とろくでもない男、パッとしない男に惚れる。そういう男たちを谷原章介、宮藤官九郎、劇団ひとり、武田真治、荒川良々、伊勢谷友介らが好演している。そして、松子の一生を回想する狂言廻し役をしているのが瑛太(松子の甥役)である。

ほかにも枚挙に暇がないほどの豪華キャストで、松子の刑務所仲間の黒沢あすか、父・弟・妹役の柄本明・香川照之・市川実日子ら、助演男優/女優賞の候補に事欠かない。松子が死の直前に住んでいたアパートの隣人役のゴリもなかなかユーモラスだった。

傍から見ると松子は悲惨な人生を送っているように見えるが、彼女はいつも愛に生きていた。それはまがい物の愛かもしれないけれど、強靭な愛であったのも確かだ。

服役中の伊勢谷友介が聖書の中の「神は愛」という言葉に惹かれて、刑務所内の牧師(嶋田久作)に「それはどういう意味なのか」と問うシーン。「松子は神だ」と悟るシーン。「もう会うまい、忘れよう」とする伊勢谷と一瞬たりとも忘れることなく伊勢谷の出所を待つ中谷美紀。

途中涙がこみ上げてきて、遂にはらりと零してしまった。映画の終わり際のシーンでまた目頭が熱くなった。「痛いほど解る」という表現があるが、この映画はそれを通り越して実際に痛みを含んだ感動を残して行く。

『下妻物語』でもそうだったが、この監督は嫌われ者や異端視される者に対して、優しい優しい眼差しを向けている。どこを取っても貶しようのない圧巻の作品であった。今後何度も何度も見たくなる映画だと思う。

映画館を出て歩いていたら、後ろのカップルの話が聞こえた。

男:「なんだよ、お笑いじゃないか」
女:「うん、嵌る人は嵌るんだろうけどねえ」

ふーん、そんな風な感じ方しかしない人たちもいるんだ。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

「朱雀門」という方法・第2章
日っ歩~美しいもの、映画、子育て...の日々~
It's a Wonderful Life
ライターへの道。女32歳の挑戦。
アロハ坊主の日がな一日

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