『ママ、死体を発見す』クレイグ・ライス(書評)
【6月11日特記】 それはいかんでしょ、と思った。クレイグ・ライスの代筆であると言われているからと言って、それを堂々と「クレイグ・ライス著」と銘打って売り出すのは反則ではないか?
元々出版された時のように「ジプシー・ローズ・リー著」とした上で、帯にでも「クレイグ・ライス著と言われている」と書いておくか、せいぜい著者名の横に括弧して(クレイグ・ライス)と書いておくぐらいが許される限界ではないだろうか?
などと思いながら読み始めたのだが、いやいや、これは紛れもなくクレイグ・ライスだ。彼女のファンであればちょっと読めばすぐに確信するだろう。あまりのライスらしさに読んでいて笑いがこみ上げてくるくらいだ。
多分、本格ミステリ・ファン、正統派ミステリ愛好家がこれを読んだら許せないだろうなあ。このいい加減な筋運び、ご都合主義の謎解き。きっと「こんなもん、ミステリじゃない!」って言うんだろうなあ、と思う。
これがミステリかどうかを議論しても仕方がないが、少なくともゆる~いミステリであることは間違いない。そして、その緩さを埋めているのがライス特有の人間描写である。
適宜にデフォルメしてあって、小さなことで大騒ぎする憎めない人たち。ライスの代表作であるジャスタス夫妻もの(シリーズ1作目ではまだ夫婦ではないが)におけるヘレン&ジェイク・ジャスタスや、ダニエル・フォン・フラナガン警部補、天使のシティホール・バーのジョー、葬儀屋のリコ・ディアンジェロみたいに個性的で愉快な人物で溢れかえると言うほどではないが、この作品においては主人公であるジプシー・ローズの母親がともかく異彩を放っている。
彼女が第1の死体の発見者なのだが、常に余計なことをして事件を混乱させてくれる。その性癖を知っているだけに娘のジプシーは余計に勘ぐって推理が混乱する。他にも芸人やストリッパーなどあまり見上げた存在ではないだけに笑いを誘う登場人物たちが彩ってさらにストーリーは混乱する。ジプシーの夫のビフだけが冷静に謎解きを進めるのである。
あとがきを読むまで知らなかったのだが、こういう小説を「スクリューボール・コメディ」と呼ぶのだそうである。そうだな、ミステリじゃなくたって縦横無尽のスクリューボール・コメディだというだけで充分か。それにライスらしい味付けが随所に見られるし。いや満足満足。
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