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Sunday, May 21, 2006

映画『雪に願うこと』

【5月21日特記】 映画『雪に願うこと』を観てきた。

佐藤浩市と小泉今日子が出ていて根岸吉太郎監督──それだけの予備知識しかないまま見に行った。この3人のうち後の2人の名前に惹かれたのである。第18回東京国際映画祭でグランプリほか4冠を獲得したことは見終わってパンフレットを読むまで知らなかった。

根岸吉太郎監督作品を観るのは5本目だが、最後に観た『永遠の1/2』(87年キネ旬4位)以来18年6ヶ月ぶりである(ちなみに、その1本前に観たのが前年キネ旬3位だった『ウホッホ探検隊』で、この脚本を手がけていたのが『間宮兄弟』の監督である森田芳光である)。1981年の『遠雷』(キネ旬2位)で一躍にして名を成した監督だが、一昨年の『透光の樹』が久しぶりにキネ旬10位に入って健在ぶりをアピールした。

小泉今日子の出演作を映画館で観るのは7本目。最近では昨年の『空中庭園』(キネ旬9位)での演技が凄かったが、忘れられないのは相米慎二監督の遺作となった『風花』(01年キネ旬5位)である。

考えてみればあの映画もビーワイルドの製作だったなあと思いながらパンフレットを読んでいたら、この『雪に願うこと』も『風花』と同じ鳴海章の原作で、当初相米慎二が映画化する予定だったらしい。根岸監督にとっては相米の弔い合戦ということになる。パンフレットに載っていたインタビューでは「相米がいなくなったポッカリした穴を意識してたかもしれません」「弔い合戦だからワンシーンワンカットにしよう、とか思うわけじゃなくて(笑)」と語っている。

しかも、偶然ではあるが日本映画が東京国際映画祭でグランプリを受賞するのは相米慎二の『台風クラブ』(85年キネ旬4位、僕はこの映画を映画館とTVで合計5回か6回観ている)以来の快挙である。

そして、佐藤浩市は『魚影の群れ』(83年キネ旬7位)と『あ、春』(99年キネ旬1位)の2つの相米作品に出演している。

さあ、僕の好きな監督や役者が繋がってきた。

家族を捨てて東京でネット通販会社を経営していた伊勢谷友介が事業に失敗して一文無しで帯広の兄・佐藤浩市の許に転がり込む。兄は「ばんえい競馬」の調教師。

このばんえい競馬というのがものすごい代物だ。世界中でやっているのはここだけらしいのだが、元々は北海道開拓の農耕馬を走らせたお祭りだったとか。サラブレッドみたいなスタイリッシュな馬ではなく、首も体も足も異様に太い、重いものは1トンを越す巨漢馬が、人を乗せて走るのではなく騎手が乗った重そうな橇(これも一番重いものは1トンを超すらしい)を引いて走るのである。しかも途中に2箇所障害がある。障害ったってハードルじゃないですよ、土を盛った「山」です。

夜が明けるか明けないかの頃に馬たちの調教が始まる。暗い中で馬の体から湯気が上がっているシーンが鳥肌ものである。騎手をはじめとして人間たちはカラフルな服も着てはいるが、全体としては寒色ばかりの、いやほとんどモノクロに近い映画である。にもかかわらず画面には色彩がある。圧倒的なカラーがあるのである。

そのばんえい競馬の厩舎で「大将」・佐藤の下で4人の厩務員が働いている。この4人のうち山本浩司が非常に良い演技をしている。伊勢谷の小学校の同級生という設定で、いつもヘラヘラ笑っている好人物。間抜けな分、皆をなごませる役割だ。

伊勢谷はそこの下働きとなる。厩務員の生活は家族そのもので、佐藤が厳格な父役である。そして、母役として賄い婦の小泉今日子がいる。

ここで勝てない馬は阿蘇に送られて馬刺しの材料になる。伊勢谷は1頭の馬刺し寸前の馬に肩入れして一生懸命調教する。そして、吹石一恵扮する女性騎手が騎乗してレースに向かう。このあたりは『優駿』とか『シービスケット』などの競馬映画を思い出させるが、この勝負の行方が映画の肝ではない。

この映画は、例えば、潰れかけの会社を放棄して兄の許に転がり込んだ伊勢谷が、自分は逃げてばかりいたことに気づく映画である。そして、他の登場人物にもそれぞれのテーマが用意されている。

屋根の上の雪球のエピソードはなかなか巧い仕掛けだ。演出についてケチのつけようがない。あとは好きか嫌いかだ。役者陣も素晴らしい。佐藤浩市の圧倒的な存在感。KYON2 もおばさんの雰囲気をちゃんと出しているし、伊勢谷も佐藤浩市と渡り合っている。テーマの設定も実にしっかりしている(その点についてはパンフに載っている川本三郎の分析が見事!)。カメラも、派手には動かないが良い画を撮っている。前述の馬の汗が湯気になって朝の闇に立ち上るシーン、レースの最中に騎手と馬を真正面上から切り取った画、等々。

ストレートな映画で、僕はストレートな映画はあまり好きではないが、それでも僕がキネ旬の審査員なら10位以内に投票するかもしれない。

思えば僕がビーワイルドの若杉社長と名刺交換させてもらったのは、『風花』を観た直後だった。「面白かったですか?」と訊かれて「面白かったです!」と答えたら、「(自分が出資しておきながら)正直言って僕にはよく解らんのです」と笑っておられた。僕は「キネ旬のベスト10には間違いなく入ると思います」と言ったのを憶えている(そして、その予言は当たった)。

その後ビーワイルドは『血と骨』(04年キネ旬2位)という大作も手がけているし、おまけに今回は東京国際映画祭グランプリの栄誉を引っさげての公開である。今回ばかりは若杉氏も公開前から確かな手ごたえを感じておられたのだろうか?

新宿テアトルタイムズスクエアという大きな劇場にやや空席が目立ったのが気にはなるが・・・。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

航  海  記
soramove
アロハ坊主の日がな一日
Swing des Spoutniks

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Comments

TBありがとうございます。うれしいです。
18年間、北海度の片田舎で育ち、大学入学から
12年ほどすんでいます。まさに主人公と同じ境遇。
特別な作品になりました。

Posted by: t@shi | Friday, June 02, 2006 at 17:28

> t@shiさま

非常に良い文章だったのでこちらが先にTBさせてもらいました。TB返ししていただいた上にご丁寧にコメントまでありがとうございました。

Posted by: yama_eigh | Friday, June 02, 2006 at 17:56

>僕がキネ旬の審査員なら10位以内に投票するかもしれない。

僕も、それに1票です。
10位以内といわず
ベスト5以内でもおかしくないと思います。

Posted by: アロハ坊主 | Tuesday, June 06, 2006 at 23:24

> アロハ坊主さん

久しぶりの相互TBになりましたね。
僕が「10位以内」とか「かもしれない」などと控え目な表現をしているのは、「すごく良かったけど僕の好きなタイプの映画ではないもんで」という意味です。

この映画は横綱相撲、剛速球、正統派ストロング・スタイルのプロレスでした。僕はどうしても、とったり/けたぐり、変化球、メキシコ流の空飛ぶルチャ・リブレが好きなもんで・・・。でも、とても良い映画でした、はい。

Posted by: yama_eigh | Tuesday, June 06, 2006 at 23:54

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