はてしないトイレ談義(番外編)
【5月24日特記】 5/13の記事「映画『間宮兄弟』1」に頂いた朱雀門さんのコメントに「中盤を過ぎたあたりから不覚にも膀胱がキリキリしてしまった」という下りがありましたが、実は僕も『博士の愛した数式』を観た時に同じ思いをしました。で、僕の場合は辛抱しきれずに途中で抜けました。
何を隠そう僕はトイレが近いのです、大なり小なり。つまり、うんこもおしっこも。トイレに行きたくて死ぬほど悶え苦しんだ経験も数多くあるのですが、今回はその中でも極め付きの体験談を披露します。
さて、何を隠そう僕はトイレに関する文章をいくつかHPのほうに掲載してます(「はてしないトイレ談義」・「続・はてしないトイレ談義」)。今回何故HPのほうではなくブログのほうに書いているかと言えば、あっちは一応「ことばにまつわるエッセイ」。今回はことばとは関係のない、純粋なる尿意との戦いの話だからです。
あれは7~8年前、僕が本社のテレビ編成部にいたときのこと。テレビ編成部には年2回の改編期の前に必ず借り出される仕事がありました。それは、関西の某大スポンサーに対してその社が提供している番組の今後の企画内容を説明するというものでした。
そういう説明は普通は営業マンの仕事です。しかし、相手が大スポンサーであるために単なる売り子ではなく企画の専門家が出向くという丁寧なスタイルを採ってました。企画の専門家と言えば本当はその番組を作っている制作マンなんですが、スポンサーと制作マンを直接対峙させるのを嫌ってなのか、何故か借り出されるのは編成の企画担当でした。
当時僕は企画班のチーフみたいな立場にあったので、直接の説明者ではなく、その付き添いみたいな形で同行する破目になりました。で、僕の場合は元営業マン、しかも元タイムセールス(つまり番組を売りに行く)担当でしたのでそういう経験は山ほどあったのですが、直接の説明者であった男性A君と女性Bさんは全く営業経験がありません。
なにせスポンサー様と直接口を利くのも初めてで、「自分が言い損なうと月額何千万円の提供料金がパーになる」みたいな過大なプレッシャーを受けていたようでした。
で、2人は周到な予習をし入念なリハーサルを重ねた上で当日に臨みました(なんと前夜は午前2時までやってたと後で聞いてびっくりしました)。
僕はと言えば、実はスポンサーに到着した時点で軽い尿意を催しており、会議室に入る前にトイレに行っておこうと思ったのですが、受付に行って名前を告げたら間髪を入れず宣伝担当者が現われてしまったので機会を失ってしまいました。
会議室に入ると業界で有名なやり手の女性宣伝チーフが気さくな感じで現われ(と、ここまで書いてしまうと在阪局の関係者ならどこのスポンサーか判ったと思いますが)、すぐにプレゼンは始まりました。
提供してもらってる番組がたくさんあって、それをそれぞれの番組の担当であるA君とBさんが順番に説明します。ところが正直言ってこの2人、予習のしすぎ。で、予習したことを全部喋ろうとする。そりゃまあ結構なんですが、やたらと時間がかかるんですよ。それに喋りすぎると相手の聞く気を削いでしまうことが多く、また逆に突っ込まれやすくなる傾向があるのです。
もう少し慣れてくると、頭に詰め込んできたことを全て吐き出すのではなく、相手のリアクションを見ながら相手が食いついてきそうな側面にテーマを絞り込んで行くとか、わざと説明を省いて相手に質問させ、そこで用意してあった非常に納得の行く解説をするとか、そういうテクが身についてくるのですが、なにせ真面目一本槍・リハーサル数時間の2人ですから微に入り細を穿ち滔々と延々と喋る喋る。その間、僕の尿意はじりじりと高まってきます。
で、敵もさるもの、名うての女性宣伝チーフが楽しむかのように突っ込んでくる。A君・Bさんしどろもどろ。最初は僕も横から助け舟出したりしてたんですが、次第にその余裕は消えうせ、膀胱はパンパンに空気を入れたドッジボール状態。胴体が尿瓶だとすれば胃のあたりまで尿が溜まってきているのではないかという感じで、もうおしっこのことしか考えられない。頭の中真っ白と言うか、真っ黄色と言うか・・・。
今なら急にポケットの携帯を取り出して、緊急の電話が入った振りをして会議室を飛び出るという裏技もあるのですが、当時は携帯なんか持ってません。途中からプレゼンそっちのけで何とか会議室を抜け出すことばかり考え始めたのですが、もう脳が理路整然と動きません。
う゛ー、まだ終わらんか・・・。もう、尿が脳にまわってきた。オー、ニョー!、じゃない、オー、ノー!
A君、Bさん、もう君らは喋らなくて良い。喋っても突っ込まれるだけだ。いや、頼むからもう喋らないで。予定稿の半分で話を打ち切って。お願いだがら゛。
で、もう指一本触られたら漏れてしまうという状態で辛うじて会議は終わりました。会議室を出て一歩踏み出すごとに震えるような痺れるような・・・。
で、悪いことにスポンサー側の出席者が全員でお見送りについてきます。「トイレ」という言葉を発する間も与えてくれずエレベータ・ホールに誘導され、ボタンが押され、エレベータが来て、ええい、ままよ、このまま下に降りてからするしかない。背中をかがめて歯を食いしばって、ぎこちないお辞儀をして無言でエレベータに乗り込み(もうひと言も発する余裕がない)1Fへ。
チンッというエレベータの到着音さえも膀胱に亀裂を走らせそうです。ところが1Fで降りたそこはホールとビルの出口。なんとトイレはなかったのです!
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