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Sunday, May 28, 2006

『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』山田詠美(書評)

【5月28日特記】 初めて読んだ『風味絶佳』があまりに素晴らしかったので、遡ってこの作品を読んでみた。うむ、少し薄い。あるいは逆に濃すぎるという表現も可能か。

でも、ちょっと安心した。だって20年近く前の作品だもんねえ。ここからどんどん巧くなってとうとうあの『風味絶佳』の域に達したのかと思うと、あれよりは少し単調なこの直木賞受賞作に余計に愛着が湧いてきた。

僕の趣味から言えばちょっとセックスに寄り過ぎ。セックス一色になってしまっている──それが「濃すぎる」という表現に繋がり、描かれなかったシーンのことを考えると「少し薄い」という表現にもなる。

もちろん、このセックスをテーマにしたモノトーンの絵は溜息が出るほど見事に描かれている。

ただ、そんな中で唯一セックスには至らずに終わっている「PRECIOUS PRECIOUS」、漸くセックスにこぎつけたところで終わる「FEEL THE FIRE」、最初のセックスに及んだ後いくら求めてもしてもらえない「男が女を愛する時」あたりが非常に深みのある作品になっているのは、そもそもこの作家はセックスそのものに留まることなく、もう少しその周辺にまで広げて、セックスを中心とする日常生活を描くのが巧いということに尽きるのではないか?

それにしても、作家名を見なければ、読んでいて何の疑問もなく米国文学の翻訳だと思ってしまう。これはアメリカかぶれなどということではなく間違いなく作者の筆致の確かさによるものである。

ソウル・ミュージックのタイトルがついた8つの作品──聞いたこともない歌もあれば、タイトルは知っているが俄かに思い出せない曲もあり、そして「ME AND MRS. JONES」みたいな大好きな曲もある(この作品もかなり切ない)。ひとつひとつが、男と女のとてもいとおしい関係を、精緻に、エロティックに、そして意外に客観的に描いてあって、こんなことができる作家は恐らく山田詠美以外にはいないのだろう。

彼女自身があとがきに書いている「そして、今ではただの男好きである」「日本語を綺麗に扱える黒人女(シスター)は世の中で私だけなんだ」という表現に作家の矜持を感じる。そして、その言葉には全く異論をさしはさむ余地がないのである。

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