『他人を見下す若者たち』速水敏彦(書評)
【5月28日特記】 最近の日本人、特に若者たちの行動パタンが変わってきた。
彼らは社会生活が苦手で、他人からマイナスの評価を受けることを極端に恐れ、自らの成功体験によって自信を持つのではなく、(そんな体験は全くないので)先手を打って他人を貶めることによって謂れのない自己肯定に至っている。
このことによって今の若者はキレやすく攻撃性に満ちた存在になってしまっているのである──この本の趣旨を私がまとめると、まあ、そんなところである。
そして、著者はこの「他社軽視を通じて生じる偽りのプライド」を「仮想的有能感」と名づけ、さらに既存の概念である「自尊感情」と有能感とをクロス集計することによって有能感を4タイプに分類し、若者たちに多い「仮想型有能感」を深く掘り下げる一方で、逆に自らの成功体験により自信過剰に陥ってしまって周りを滅多切りにする「全能型有能感」が中年以上に増えているという現象も指摘している。
この本は、読んでいて別に難しいことはないが、書き方としてはむしろ学術論文に近く、そういうタイプの文章が苦手な人は、例えばこの書評欄に載っているサマリーを読むだけにしておいたほうが良いかもしれない。
ただ、それさえ気にならなければ大変読み応えのある論説である。
この「仮想的有能感」という概念は近年著者が唱え始めたものであり、社会心理学の世界で定説となっているものではない。従って時系列データの蓄積がなされていない中、著者はいくつかの実証データと推論を交えて論を展開している。
もう少し豊富に科学的裏づけがあればもっと説得力があるのにという気もするが、しかし、印象としてはまことに見事な世評である。そして、何よりも立派だなあと思うのは、この著者は単なる分析に終始するのではなく、自分なりに「では、どうすれば良いか」を書いていることである。
彼の言う「では、どうすれば良いか」は公平に見てやや月次な感じもする。ただ、そういう地道なことでしか、この嘆くべき現状は改善されないのかもしれない。
1人でも多くの親や教育関係者に読んでもらいたい。私はそのいずれでもないので、自身を分析しながら、自分がこの本で言う何に当たるかを考えながら読んだ。そういう読み方も必要だろう。
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