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Friday, March 17, 2006

映画『運命じゃない人』

【3月17日特記】 映画『運命じゃない人』を観てきた。「国内映画賞8冠達成」を記念してのアンコール・レイトショーである。移転後の渋谷ユーロスペースに初めて行って来た。

ファーストランの時には観ようかどうしようか迷っているうちに終わってしまい、その後あちこちで高い評判を耳にして僕としては悔しい思いをしていたので、この再上映は嬉しい限りであった。

しかし、今日見るまで知らなかったのだが、これPFFスカラシップ作品だったんですね。PFFスカラシップでいきなりキネ旬5位とはあっぱれとしか言いようがない。

で、この作品の評価として恐らく誰もが取り上げるのが独特の3部構成に関することだろう。

しかし、僕としてはその前にどうしても指摘しておきたいことがある。それは、監督であり脚本も兼ねている内田けんじの、ことばに対する抜群のセンスの良さと台詞廻しの巧さである。

皮肉と諧謔、ユーモアとペーソス、軽さの裏の辛辣さ、間の悪さとバツの悪さの忠実な写生、「いるいる、そんな奴」っちゅう感じ、相手の発言を受けての軽妙な返し、一度書いた台詞を踏まえての展開、人間の良さも悪さも余すところなく描き出す観察力、リアリティを踏み外さないファンタジー・・・。

指摘し始めると枚挙に暇がないが、ともかくことばの選び方が飛びぬけて良いのである。人物造形も的確だし、笑いの取り方も完璧に心得ている。台詞廻しのセンスの良さは余人を以て替え難いものがある。

その上で、この入り組んだ構成とストーリーである。

このストーリーは3度語られる。
最初はいつまでも失恋から立ち直れないサラリーマン・宮田武(中村靖日)の目から見た世界。次いで宮田の親友で探偵の神田勇介(山中聡)の目から見た世界。そして、最後にヤクザの親分・浅井(山下規介)の目から見た世界。

で、宮田の視点で語られている時には、宮田の目に映っていない時に他の人物が何をしていたのかが分からないわけで、その後、神田の視点で語りなおされた時に初めて、「ああ、なるほど、このとき神田はここにいてこんなことしてたのか」と判る。

で、それだけかと思っていたら、更に浅井の視点で語りなおされて、観客はもう一度同じような別の発見をするのである。

登場人物としては他に2人の女優(霧島れいか&板谷由夏)が絡み、ストーリーは当然このトリックを巧妙に操作しているので、「うーん」と唸るような展開になっている。いやはや本当に見事に練られた構成である。

ただ、映画が始まってすぐに感じたのが画面の色の悪さとざらつき感、そして2人の役者(中村靖日と霧島れいか)の下手さ──まあ、PFFスカラシップなら仕方がないかという気もしたが・・・。

中村靖日は『ジョゼと虎と魚たち』や『恋は五・七・五!』にも出ていた人で、とても良い味を出す役者で実際僕も彼の演技を見て笑いもし感心もしたのだが、少し気に入らない点がある。舞台向きの演技なのである。顔がアップになる映画の場合はもう少し抑え目に演じたほうが良いのではないだろうか。その点、他の3人は大変自然な演技だった。

何度も言うようだけれど、この映画の最大のポイントは脚本家・内田けんじの、ことばのセンスの良さである。入り組んだ構成は確かに見事であるが、次の映画で同じことはできないだろう。しかし、台詞廻しのセンスの良さは何度違う映画を撮ってもきっと同じように活きてくるだろう。

将来がとても楽しみな脚本家である。

ところで、もうDVDが発売されてるんですね。買って損はないよ、この作品。

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