中古楽器とファシズム
【3月15日特記】 今日の朝刊で知ったのだが、経済産業省は4月1日から本格施行する「電気用品安全法」の対象から中古電子楽器を外すことを決めたらしい。
この法律については、随分前にとあるミュージシャンのブログで知ったのだが、坂本龍一氏らが中心となって7万5千もの反対署名を集めていたとは知らなかった。
全くご存じない方のために書くと、メーカーなどが安全性を確認した印である「PSEマーク」をつけた電気製品以外は販売を禁止する法律である。法律自体は2001年に施行されたのだが、今年3月末を以て猶予期間が終わるのである。
この法律を立案した一番最初の発想は、多分「中古の電化製品は漏電の恐れがあるので危ない」という単なる善意だったのだろう。ただ、その先に「中古製品を買えなくなると新製品が売れて経済が活気づくだろう」という色気があったのも確かではないかな。
いずれにしても、せいぜいその程度までしか考えていなかったはずだ。まさかミュージシャンが署名運動をするなんて(中古のアンプや電子楽器でしか出せない音があろうとは)夢にも思ってなかったに違いない。その狼狽ぶりが、本格施行直前に例外を増やすという“つけ焼き刃”に現われている。
しかし、今度は他の中古品業者から「なんで楽器だけ」「不公平だ」との声が上がっているとか。そりゃ当然だ。楽器だけは漏電しないのかい? あるいは、楽器は漏電しても良いのかい?
経産省はまことしやかな理由を述べているが、どうも理屈合せのようで説得力がない。そうなって来ると、そもそも漏電の恐れがあるというのは非常に稀なケースで、実は家電メーカーの売上げ増だけを考えて作った法律なのではないかと勘ぐりたくもなる。
いずれにしても、法律を作った人たちには「何でも新しいほうが良いに決まっている」という固定観念しかなかったのだろう。
確かに一時期、国民の多くが「新=善」という思い込みに囚われていた時代があった。逆に、いにしえの時代には古いものほど価値が高いとされたこともあった。しかし、今や新しいか古いかだけで一律に価値を判断できる時代ではなくなった。
それは良いことである。
なぜなら単一の基準で一律に判断を下してしまうのはファシズムに他ならないから。今回のドタバタは、民主主義社会が少しは成熟した証拠なのである。
このことは独り経産省の責任問題ではなく、全ての人の戒めとすべきことである。
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