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Sunday, March 05, 2006

映画『県庁の星』1

【3月5日特記】 映画『県庁の星』を観てきた。実は原作本が出た時に読もうかなと思っていたら映画になると聞いたので、結局読むのはやめて公開を待っていたのである(とは言え映画の出来には全然期待していなかった)。

冒頭から空撮だ(断崖で海と接した荒地に倒れている織田裕二。この画の意味は後で判る)。そして巨大養護施設のCG。──いかにもフジテレビという幕開け! 逆になおさら「う~ん、あんまり期待できんかな」という気分になってしまった。

原作が売れたのであまり詳しくストーリーを書く必要はないと思う。これは県庁に勤めるエリート官僚が人事交流研修で場末のスーパーに派遣され、役所と民間の風土・流儀・発想などの違いに困惑する(もちろん派遣されたほうのスーパーはもっと困惑する)顛末を綴ったものである。

映画はものすごく解りやすく描いてある。戯画化するためには単純化が必要だったのかな。でも、僕は単純化して解りやすくなった世界よりも、単純でない解りにくい世界をそのまま描いてあるほうが好きだ。世界は本来複雑怪奇なものであって、単純化してしまうことはとても危険だからだ。

ただ、県庁と言えば権力の端くれである。権力は批判され戯画化されなければならない。それが権力の宿命である。それを考えればこういう手法も許容範囲なのかもしれない。

で、その「県庁の星」に扮しているのが織田裕二。スーパーでは「県庁さん」と呼ばれる破目になる。そして県庁さんの教育係に任命されたパートのチーフ格の女性が柴咲コウである。

原作を読んだ人の中には、40代の女性の役を想定を変えて柴咲に宛てたことが気に入らない人もいるだろう。しかし、動員を狙うとついついそういう風にしたくなる気も解る。どうか許してやってほしい。

さて、さっきからケチをつけるようなことばかり書いているが、実に丁寧な演出の行き届いた作品だというのが見終わっての感想である。

まず、織田と柴咲の身長差を活かしたカメラ・アングル。

織田と柴咲が初めてあった日、向かい合っていた織田が柴咲の身長に合せて頭を突き出して「君、バイト?」と訊くシーンでは、画面の左に柴咲の横顔があって、右上から織田の横顔がフレーム・インしてくる。

その後も2人が会話するシーンではずっと、柴咲を映す時はやや上から、織田を映す時はやや下から、つまりお互いの目線で撮っているのである。こういうこだわり/気配りが大変良く効いている。

台詞廻しも、特に洒落たものはないが非常に自然で、筋を運ぶ上では全く抜かりのない配し方である。そして、ストーリーを進める上では不必要な無駄な台詞もちゃんと挟んである。そういう台詞が軽い笑いを誘ったりリアリティを補強したりするということを、この監督はちゃんと知っているのである。立派だと思う。

演出も肌理細かい。

ずぶ濡れになって訪ねてきた織田にタオルを渡そうとして洗面所に引っ込んだ柴咲が、一旦は一番上のタオルを取るのだが思い直してどのタオルが一番きれいか見比べてしまうシーンとか、織田が県庁に幻滅して職員徽章を投げ捨てたのが立て看板に当たって撥ね返るシーン(ここで撥ね返ったことが後で意味を持ってくる)とか・・・。

そういう細心の注意が映画全体に行き渡っているのである。だからストーリーがスーッと入ってくる。

県会議場での織田と石坂浩二(県会議長役)の応酬のシーンはリアリティ台無しという感じもあったが、ま、ご愛嬌である。結局2度ほどウルウルしながら見てしまった。

スーパーでは鼻つまみ的存在で、おまけに自分がいない間に県庁のプロジェクト・メンバーからも外されて絶望の淵に立った織田が、やがて柴咲の助けを借りて潰れかけのスーパーを建て直し、研修が明けて県庁に戻ると今度は県庁の改革運動に乗り出す。

これは役所の人間はこんな腐った奴ばかりだとか、ダメな企業にはこんな役立たずしかいないとかいうことを描いた映画ではない。組織から人間に回帰する映画なのである。

人が組織に飲み込まれるのではなく、人が組織を変えて行くんだと力強く宣言した映画である。希望を感じさせる映画である。人間に対する信頼感に溢れた映画である。好きだなあ、そういうの。

ともすれば力が入りすぎて一本調子になってしまう感のある織田・柴咲を配したのは却って正解であったかもしれない。役者陣の中では惣菜厨房担当役の和田聰宏が非常に良かった。あと奥貫薫は昔から好き。

佳作であった。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

アロハ坊主の日がな一日
ドリアンいいたい放題
ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!

【追記】

どう考えてもこれはダメだなあと思ったことが1つだけある。それは織田裕二がビニール傘を持っていたこと。

これは業界では「ロケ傘」と言われており、透き通った傘を持つことによって傘を持っている人間の顔も、その後ろの景色も透けて見えるので、テレビで雨中のロケをするときには必ずビニール傘を持たせるのである。

普段TVで仕事をしているチームだからうっかりロケ傘を持たせてしまったのだろうか?

しかし、エリート意識が強く恰好良いスーツで身を固めている県庁職員の傘がビニール傘というのはちょっと違うのではないだろうか?

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