ドラマW『春、バーニーズで』
【2月26日特記】 2/19(日)に録画しておいた『春、バーニーズで』を観た。WOWOW の drama W シリーズである(このシリーズでは昨年11/13の『アルバイト探偵』も録画したまままだ観ていない。順序が逆になってしまった)。
本当は映画『県庁の星』を観に行くつもりでいたのだが雨も降っていたし、昨日観た『好きだ、』の余韻醒めやらず、あまり趣の違うものは観たくなかったのだ。今日のチョイスは西島秀俊繋がり。
昨日の記事では宮﨑あおいと構図のことばかり書いて西島秀俊にほとんど触れなかったけど、このブログでも再三にわたって取り上げているように、彼は本当に巧いし魅力的な役者だと思う。
僕は彼の映画を8本観ているが、そのうち6本が去年と今年である(ナレーションを担当した『トニー滝谷』まで含めると合計9本、そのうち7本が去年と今年になる)。それに同じく WOWOW で観た『Dolls』を加えて10本。この『春、バーニーズで』が11本目である。
彼のあの存在感。無表情であるようでいて、実に多くのことを語ってしまう演技力は、彼が人生の悲しみや淋しさというものをちゃんと消化できていることに由来しているのではないかという感じがする。
そして、この映画ではもうひとり、寺島しのぶ。彼女もまた、ほとんど怪優の域に入ってきた。
僕は当初彼女を「親の七光り」女優としか見ていなくて、何よりもあの顔が嫌いだったのだけれど、『赤目四十八瀧心中未遂』で見直して、今日の『春、バーニーズで』で完璧に評価は固まった。
美しさに於いてはお母さんの半分以下だが、演技力では間違いなく倍以上である。
ストーリーは、32歳の会社員・筒井彰(西島秀俊)が取引先の嘱託社員である瞳(寺島しのぶ)にほとんど一目惚れしてしまい、初めは「もっといい相手探しなよ。あなたの面倒まで見切れない」と断られるのだが結局結婚するところから始まる。
普通と違うのは瞳がバツイチ&こぶ付きであることである。しかも、彰は瞳が息子&母親(賠償美津子)と同居している家にそのまま転がり込む。
前半はそんな夫婦の日常が静かに綴られて行き、「このまま最後までこういうもの見せられるとちょっとしんどいな」と思い始めた中盤から少し新しい展開がある。
原作は吉田修一。この人に関しては芥川賞を受賞した『パーク・ライフ』の評判があまりに散々だったので読んでいないのだが、この話は却々良かった。どこまで原作に忠実なのかは知らないが・・・。
WOWOW の番組表の解説欄には「浮遊感」という表現が使われているが、僕は少し違うと思った。このドラマの全面に溢れ出しているのは「満たされない感じ」である。
満たされないのは彰や瞳が特別だからではない。過去を引きずっているからでもなく、現在の状況が重荷になっているからでもない。ただ、それでもどこか満たされないのである。
そういう点で、日光に置き忘れた腕時計のエピソード、そして「2つの時間」の暗示が非常に効いていた。その比喩の力が映画全体を貫いている。そして、「狼少年ごっこ」も怖かった。
画面を観ながら僕は「この2人の幸せが崩れませんように」と祈るような気持ちになった。満たされない気持ちが暴走すると夫婦は崩れる。でも、満たされないものは満たされないまま、それでもちゃんと引き合う堅牢な関係を成り立たせるのが夫婦、あるいは家族の仕事なのである。
西島秀俊、寺島しのぶ、賠償美津子の3人の表情は三人三様でありながらいずれも極めて印象的だった。
監督は市川準。この人についても僕は『トニー滝谷』を観るまで見くびっていた。このじんわりと染みてくる感じは他の監督には出せないだろう。深い、非常に深い作品。
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