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Saturday, February 25, 2006

映画『好きだ、』

【2月25日特記】 映画『好きだ、』を観てきた。今回は長い記事になりそうだ。今、書きたいことが頭の中から溢れ返っている。

公開初日の初回上映を目指して出かけたのだが、初回の約2時間前に着いた時には既に初回はおろか2回目の上映まで満員札止め。

これ、みんな初回と2回目の間に行われる舞台挨拶目当てなんですよね。で、舞台挨拶観覧の整理券は朝の8時から配布──うーむ、これはかなり気合の入った人しか無理ですよね。ひょっとしたらと思ってたんですけど・・・。

で、仕方なく3回目の16:35の回をゲット。既に整理番号048番。上映開始まで6時間半以上あるので一旦家に戻ることにした。

それで、この3回目もやはり満員御礼、通路に座布団敷いて座り見状態。初日とは言えこれだけ入ると観客動員もすごいのでは?と思ってしまうが、東京都内ではここアミューズCQN(シアター1)のみでの上映。200人の箱×1日4回=座布団組を加えても1,000人弱。いろんな意味で、もうちょっとなんとかならないのかねえ。

さて、肝腎の中味であるが、まず宮﨑あおいファンのために書いておこう。

年が明けてから、『ギミー・ヘブン』、『エリ・エリ レマ サバクタニ』、そしてこの『好きだ、』と3本立て続けに宮﨑あおいの出演作が公開された訳だが、『ギミー・ヘブン』のほうが女優・宮﨑あおいとしての「見せ場」は多いのに映画の出来はひどく、『エリ・エリ』のほうは映画としてはなかなかの風合いなのに宮﨑あおいの役が小さいというチグハグなことになってしまっていた。

そんな中、この映画は正に「満を持して」見られる作品である。あおいちゃんのファンの皆様、お待ち遠さま!っちゅう感じ。

石川寛監督はどう撮れば宮﨑あおいが最高に魅力的なのかを完璧に心得ている。アイドルや女優さんを綺麗に撮るということは実は映画にとってとても大切なことなのである。

そして、もちろん宮﨑あおい本人は自分のどういうしぐさや表情が一番可愛いか、どう振舞えば観ているほうが切ないくらいいとおしくなるかを自然に知っている。一般人なら嫌な女なのかもしれないが、これは女優としてはプロであるということである。

最近劇場で予告編が流れ始めている『初恋』がこの後に続く訳だが、これもとても楽しみ。

とは言え、この映画では宮﨑あおいは前半にしか出ていない。

前半が大館市の同じ高校に通う17歳のヨースケ(瑛太)とユウ(宮﨑あおい)の話。後半は17年ぶりに東京で再会した34歳のヨースケ(西島秀俊)とユウ(永作博美)の話。前半と後半の間には空白があり、その17年間のことは映画の中では描かれていない。

野球部をやめてギターを始めたヨースケが土手で下手糞なギターを弾く(最初のシーンではわざとチューニングも狂わせてあった)。遠目に見ていたユウが歩いてきて傍らに腰を下ろす。

傍から見ればこれは好き同士の2人である。ところが2人はそのことを口に出せない。それどころか自分や相手のことを話題にすることさえできない。その結果、半年前に大切な人を事故で亡くしてしまったユウの姉(小山田サユリ、この女優もめちゃくちゃ良かった!!!)のことがほとんど唯一の共通の話題になってしまう。

ヨースケが頻りに姉のことを気遣うので、ユウは自分の思いとは裏腹に、姉とヨースケをくっつけようとするような行動に出てしまう。

見ていてなんとももどかしい青い恋、だけど僕らがみんな通ってきた道程が切々と描かれる。ハラハラするようなぎこちない会話。バツの悪さ。変な間(ま)。

この如実なぎこちなさがここまで見事に出ているのは脚本がないからである。役者には状況だけを与えてあとは自由に演じさせる──海外ではマイク・リー監督が同じような演出方法を執ることで有名だが、石川監督のほうはもう少し手が込んでいる。

一旦脚本は書いて、必要な部分だけ役者に読ませる(宮﨑あおいには前半だけを読ませ、瑛太には前後半通して読ませたとのこと)。そして、読ませておいて「一旦忘れてください」と言う。つまり、書いてあった台詞を喋ってト書きの通り動く必要はなく、自分の感性で喋り、動く。

だからこそ、人間同士の間に根源的に存在するぎこちなさが見事に出てくる。考えながら繰り出す言葉に現実感が伴う。表情にわざとらしさがない。

しかも、シーンによってはユウとヨースケに互いに食い違う情報を与えておいて演じさせる。2人はうまい具合に微妙にすれ違ってしまう。

下手なサスペンスを見ているより遥かにハラハラさせてくれた。息を飲んだ。胸が苦しくなった。

そして、ここまで台詞や演技のことばかり書いてきたが、実はこの映画で一番饒舌なのは構図である。画面をめちゃくちゃ広く使っている。ふんだんに空を見せる。

土手の下から「あおり」の角度で土手の上を歩く2人を撮る。画面の大部分は空。大きな画面の中にポツンと2人。土手を歩く2人の長廻しはとてもスリリングだった。

真上を向いて空自体を映す。しかも何度も何度も。

常にユウが画面の中心にいて、ヨースケはその右手前にいる。しかもフレームからはみ出している。

カットを切り替える必要のないところで何度もカットが変わる。それは直前と同じ構図でズームインしただけ。非常に不思議。

画面の右端と左端に2人がいて、真ん中に空間がある──これが2人の距離なのである(このシーンを見て、この映画を4:3のTVで放送するのは無理だと思った)。あるいは2人が歩きながら喋っているシーンなのにユウだけが左のほうに映っていて、ヨースケの声は聞こえるが姿は完璧にフレームの右側外にある。

17年後のヨースケが酔っ払って倒れていた女(野波麻帆)を家に連れ帰ったシーンでは、彼女を見下ろしているヨースケをあおり角で捉えてるのは当たり前として、見上げる彼女を映すカメラも俯瞰ではなく若干下からなのである。これもなんだかとても不思議な構図だった。

後半では、多分意図的なのだろうけれど(つまり、それが17歳の時の2人の距離と34歳の今の2人の距離の対比になっている)、ほとんど空間をあけずにユウとヨースケの顔が画面一杯に収められていたりする。

これらひとつひとつの構図が、台詞や動きや音楽よりもずっと強い力で観客に迫ってくるのである。石川監督はP・監督・脚本・編集のみならず撮影まで手がけているのである。このこだわりが統一感を生んでいる。

さて、あまりに長くなったので17年後のことは詳しく書かない(ひとつだけ書くと、17歳の宮﨑あおいと34歳の永作博美が、同じユウという女性としてとても自然に繋がっていて驚いた。多分2人の演技を見れば実感していただけると思う)。音楽も非常に素晴らしかったがここでは割愛する。ただ、こういう日常的な風景を淡々と描いて終わるのかと思っていたら、終盤にちょっと大きな展開もあってびっくりさせてくれた。

そして映画の終わり方は、ま、予想通り(もちろん、ここには書かない)。

高校時代にヨースケが自分で作ったにも拘わらずロクに弾けなかった曲が、エンドロールで初めて巧い演奏で鳴る。もちろんこの曲が終わるまで席を立てる観客などいない。

映画館を出て、同じ観客だったカップルを追い越した時、男が彼女にこう言っているのが耳に入った。

「あの感受性にカンパイだよね」

カンパイって、「乾杯」だろうか? 「完敗」だろうか?

僕は「完敗」だと思う。あまりに素晴らしい映画を観た後には、感動と裏腹に、いつも無残な敗北感がある。(宮崎あおい)

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

シネマクロニクル
アロハ坊主の日がな一日

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Comments

【自己レス】

あ、でも、言っとくけど「どこが面白いのかさっぱり解らん」って言う人も結構いると思うよ。

Posted by: yama_eigh | Saturday, February 25, 2006 at 22:37

はじめまして。
わたしは試写でみていたのですが、yama_eighさんの文章を読んでいて、画面と音がまたよみがえって、じわっと来ました。初日3回目も座布団でしたか!まずは出だし良好のようで、よかった。不思議な映画だけど、胸にずーんと突き刺さるものがあって、言葉にならない感覚を残しますね。TBさせていただきました〜。

Posted by: peridot | Sunday, February 26, 2006 at 15:17

> peridot さん

ども。ブログ拝見しました。
結構同じ映画見てますね、我々。
こっちも逆TBさせてもらいました。

Posted by: yama_eigh | Sunday, February 26, 2006 at 22:58

初めまして。昨日友人と「好きだ、」を話題にしてこの映画を思い出し、ネットを徘徊しているうちにこちらにたどり着きました。
ぼくも「好きだ、」についてブログに書いたことがあったのと、yama_eighさんの内容と文章の感じが好きになってしまい、思わずコメント書き込ませていただきました。
1年以上も前の記事に今更の書き込みですいません。笑
いい映画ですよねー!静かで、衣擦れの音が聞こえて。

Posted by: 正木啓明 | Sunday, June 17, 2007 at 14:04

> 正木啓明さん

どうも、ありがとうございます。通りすがりに読んでもらっただけではなく、丁寧なコメントまでいただいて感謝です。
ほんで、ブログとHP拝見させてもらうとなんとシンガー・ソングライター!(で絵も描く!)
こういう言い方失礼かもしれませんが、僕が青春時代を送った70年代の香りがする曲ですね。何曲か聴かせてもらいました。

Posted by: yama_eigh | Sunday, June 17, 2007 at 18:38

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