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Sunday, February 19, 2006

映画『転がれ!たま子』

【2月19日特記】 映画『転がれ!たま子』を観てきた。なかなか拾い物の映画だった。

監督の新藤風(しんどう・かぜ)は名匠・新藤兼人のお孫さんである。

自閉症とか引きこもりという表現を使ってしまうと深刻すぎる。軽い対人恐怖症のたま子が主人公(扮しているのは山田麻衣子)。小さい頃海で溺れそうになったことか、お父さんと隠れんぼをしている間に当のお父さんが離婚して家を出て行ってしまったことが原因かもしれない。

とにかくそれ以来彼女は家から半径500mより遠くには行ったことがない。家の近所の運河に架かる橋を渡ることができない。前から人が歩いてくると左右どちらかに曲がって逃げようとする。頭にはいつも特製のヘルメットを被っている。そして、近所のパン屋・日進月歩堂の甘食を食べるのが唯一の生きがいである。

そんなたま子が自立する話で、味付けとしてはライト・コメディになっている。

この映画に登場する家族は皆少し変わっている。たまこの父親(竹中直人)は自動車修理工を辞めて芸術家になろうとしている。母親(岸本加世子)は自分の子供たちと同年齢の僧侶・トラキチと電撃的に再婚する。弟の大輔(松澤傑)はバス・ガイドになりたい。

監督はこれらのちょっと変わった人たちにとても優しい目を向けている。僕はこういう態度が大好きだ。これは世間から「ちょっと変わっている」と言われている人たちに観てほしい映画だ。

「なぜ他人と同じようにできないんだろ?」「どうしてみんなが楽しいことが私は楽しくないんだろ?」「普通にやってるつもりなのになんで顰蹙を買ってしまうんだろ?」──そんなことで悩んでいる諸君、君はそれで良いんだよ。

君がやるべきことは、だからと言って他人を避けることじゃない。変な君のまんまで良いから他人と接することだ。そうやって他人と接している間に、君は確実に変わって行くだろう。変わって、少し楽につきあえるようになるはずだ。そして、そういう具合になって来ると、君の、それでも変わらなかった部分を、今度は他人が大切にしてくれるようになるはずだ。

バス・ガイドとして採用が決まった大輔がたま子に言った台詞がイケてる──「人生なんて、ちょろいもんさ。たま子、お前も頑張れ」。僕は「頑張る」という言葉は大嫌いだが、この台詞は染みた。森田芳光の35mmデビュー作『の・ようなもの』(1981年)の中にあった「メジャーなんて目じゃあないっすよ」という台詞を思い出した。

そう言えばこの映画は、当時の森田芳光に比べると技量は遥かに下だが、『の・ようなもの』に通じるパワーを感じさせた。絵柄がカラフルなのも同じだ(たま子のファッションがとてもジャンクっぽくてキュートだ)。

ただ、ナレーションで繋いで行く手法は稚拙である。しかも、ナレーターが『奥様は魔女』の中村正だったのが余計ミス・キャスト。どうも映画の流れを削いでしまう。折角のリズムを乱すのである。

後半漸くテンポが出てきたのだが、気がついてみれば後半部分にナレーションはなかったのである。言葉で説明するのではなく、後半のように台詞と映像で説明したほうが流れにリズムが生まれるのである。確かに筋が転がり出すまではナレーション処理のほうが楽だが、そこに逃げてはいけない。

この映画で一番存在感があったのが松重豊。僕はこの映画を含めて、彼の出演作品を今までに9本観ているが、今日が一番印象に残った。いやあ、巧い! そして、彼がたま子の自立の鍵を握る登場人物なのである。

とても元気の出る映画だった。
映画の終盤、NYに旅立とうとしている父親がたま子に言う。「たま子、空はどこまでも空なんだ」──この台詞を味わってほしい。これはそういう映画だった。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

気ままに映画日記☆
アロハ坊主の日がな一日

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子供のときに海に遊びに行って、母親(岸本加世子)からパンツの線より深いところにいっちゃだめよと言われたのに、波にさらわれておぼれたたま子(山田麻衣子)。 彼女はそれから、とっても用心深い女の子になりました。 24歳になったたま子。彼女は、外に出かけるときは..... [Read More]

Tracked on Sunday, February 19, 2006 23:40

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Tracked on Monday, February 20, 2006 02:22

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『転がれ!たま子』です。山田麻衣子が引きこもりな24歳とゆー設定に惹かれたわけですが。ま、それでも何とか社会に適応(?)しようと下町で奮闘するたま子のお話。つくりは、とっても普通です。 「引きこもり」って現代的なテーマの割には「リアル」を感じなかった。妙に作り過ぎでアンバランス。前半のたま子に感情移入できるかどうかがポイントかな。わたし的にはいま二つ・・・。惜しい。... [Read More]

Tracked on Tuesday, February 21, 2006 02:02

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