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Saturday, February 04, 2006

映画『三年身籠る』

【2月4日特記】 映画『三年身籠る』を観てきた。

この映画、試写会を観た人たちに聞くと頗る評判が良い。特にマダム・クニコさんとかアロハ坊主さんとか、僕の信頼する映画評ブロガーたちが激賞しているものだから気になって仕方がない。リリースが早かったので、今か今かと公開を待っていたら、知らぬうちに封切られていた。

まず、端的に目についたこと2つ。

  1. とても奥行きのある構図が多かったこと
  2. 台詞のひとつひとつがとても含蓄に満ちていたこと

3年も妊娠してると言えばすぐに思い出すのは『姑獲鳥の夏』だが、これはそんなおどろおどろしい話ではない。妊娠している当人である冬子(中島知子)はいたって淡々と自然に受けとめている。

彼女の母(木内みどり)も祖母(丹阿弥谷津子)も「本当だったら赤ちゃんはもう生まれていて一番手がかかる頃なのに楽でいいわねえ」などと脳天気なことを言っている。

ただし、それ以外の人たちはそうではない。

まず近所の人が変な目で見る。

妹の緑子(奥田恵梨華)は「ちゃんとした病院に行くべきだ」と怒り、親子ほど歳の違う恋人である海(塩見三省)の勤める大学病院に入院させようとする。と ころが、大学病院に移ったのを契機に噂が広まり「女性ナイン」などの週刊誌に書かれたり、悪質な嫌がらせ葉書が届いたりする。

夫の徹(西島秀俊)は、妻の妊娠中にはよくあることだが、浮気をしている。夫としての心構えも、近い将来の父親としての自覚もない。

挙句の果てに「いつまでたっても生まれてこないのは、俺の子じゃないからじゃないのか? お前、昔つきあってた男に宇宙人とかいなかったか?」などと訳の 分からんことを言い出す始末(それを受けて、冬子が昔の男をひとりずつ訪ねて宇宙人かどうかを確認するところがとてもおかしかった)。

ま、そういう話である。で、普通に考えれば漸く赤ちゃんが生まれたところで映画は終わりになるだろうと思うのだが、果たしてそういう結末になるのか、意外な方向に走るのか、映画を見ていて結構ハラハラ・ドキドキする。

無駄な動きをしないカメラ。ときどき人物を追っかけて動く以外はほとんど固定の画である。

そして、冒頭の住宅地のまっすぐな1本道とか、家の中の俯瞰とか、田舎家の2つの窓越しに見る2人の人物とか、ともかく奥行きの深い、重層構造の構図がとても印象深かった。

短目のカットで繋いで行く手法は、カットの変わり目に見事な(ストーリーの)省略がなされていて、そのことによって映画は非常にテンポ良く、しかもちっとも解りにくくならずに進んで行く。

すごいなあと思った。

映画はまず映像芸術である。物語だけを伝えたいのであれば作文でも書けば良い。映画が優れたものに仕上がるのは、絵心のある監督が手がけた時だけなのである。

そして、台詞の妙。非常に深い!

言葉ひとつひとつが含蓄に溢れている。connotation と言うべきか、はたまた ambivalence と称すべきか。

そのあたりの点については、マダム・クニコさんがいつもながらの見事な解釈を披露されている。

優れた映画は多様な解釈を許すものである。それは一方では観客に優しいということであり、裏を返せば観客の鑑賞眼が試されるということでもある。

音も印象的だった。

鶏団子が箸から落ちて床に転がる大げさな音。中島の1ショットのシーンで聞こえる、夫が米を研いでいる音。ラマーズ法のヒー・ヒー・フーという呼吸法・・・。

エンディングで流れた、ピアニカ前田(久しぶりに聴いた!)をフィーチャーした音楽も躍動感に溢れた良い演奏だった。

役者も非常に良かった。

西島秀俊については今さら何も語る必要がないだろう。塩見三省も然り。中島知子も味のある「はまり役」だった。そして、強烈な印象を残したのが奥田恵梨華──この映画で一番台詞の多い役だったのではないだろうか? 彼女は今TBS『白夜行』に出演しているが、ひょっとするとこのあと大ブレイクがあるかもしれない。

何もかもが印象的だった。唯野未歩子(ただの・みあこ)という監督はタダモノではない。これが35ミリ初監督だと言うのだから。

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Comments

まいど、どうもです。

昨年から、奥田恵梨華嬢は、いろんな所に顔出してますね。
好評とは言いがたかった[ 東京ゾンビ ]にも出演しちょりました。可愛い顔して勝ち気な所がいいんでしょうね。
[ エリ・エリ レマ サバクタニ ]の観てきたので、近々書きます。そのときは、TBさせていただきます。では、また。

Posted by: アロハ坊主 | Sunday, February 05, 2006 at 01:30

>優れた映画は多様な解釈を許すものである。それは一方では観客に優しいということであり、裏を返せば観客の鑑賞眼が試されるということでもある

まったく同感です。
本作は、貴方がおっしゃるように、映像も音もセリフもすべて無駄が無く、計算されつくしています。とても初監督とは思えませんね。

難解だとか、稚拙だとかいう人もいますが、
多様な解釈ができるところがすばらしいですね。
 
私のブログに興味をもってくださって、とてもうれしいです。

Posted by: マダムクニコ | Tuesday, February 07, 2006 at 22:01

> マダム・クニコさん

僕のブログをわざわざ見に来てくださったんですね。ありがとうございます。

解釈って、映画の(映画だけじゃなくて小説でも音楽でも何でもそうなんですが)ひとつの楽しみ方ですよね。

それは制作者の当初の意図からは大抵はみ出してしまっているんですが、それが作品の持つ力というものだと思います。

Posted by: yama_eigh | Wednesday, February 08, 2006 at 09:37

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