『王国 その3 ひみつの花園』よしもとばなな(書評)
【2月27日特記】 『キッチン』を読んだあと長いこと放ったらかしにしていた作家だったが、この『王国』シリーズからまた読み始めている。とは言え、『王国 その2』の書評にも書いたとおり、それは言わば「行きがかり上」である。
必ずしも読んでいてしんどいというのでもない。面白くないのでもない。ただ、オジサンには少し物足りないのである。
この観念的な作風は何なのだろう? それは僕たちオジサンには若者にありがちな抽象性に見える。
僕らはあまりに具象の垢に塗れているのかもしれない。ただ、確かに現実の生活はもっとゴツゴツして固いものではないか? 心というものの存在を忘れてしまうくらいに瑣末な具体性に溢れていて、有無を言わせぬ無理が通る世界ではないか。そして、そういう日常をひとつずつ処理した上で漸く癒しというものを求める資格が得られるような気がする。
しかし、言わばそういう日常の手順に身を染めることなくいきなり癒しに到達してしまったかのようなこの作家が、世の中に受け入れられ、高く評価されるのは何故だろう?
それは恐らく「割といい線行ってる」からではないか? 決して的の真ん中には当たっていない。しかし、少なくとも的は外していない。──そういう意味で「いい線行ってる」のである。
若い頃はとかく力が入りすぎて逆に狙った的にかすりもしないことはよくあることだ。ところが、この作家は、これだけ抽象的な手法を採りながら、それが何故かいい線行っているのである。少なくとも的のどこかにはきっちりと刺さっている感じがある。
才能だろうか? 無垢だろうか?
僕らオジサンのためにはもう少し書き加えてくれないと充分に消化できない。しかし、逆に若い人たちにはこのままの濃度の文章こそがスッと身体に沁みこむのかもしれない。
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