『ふしぎなお金』赤瀬川原平(書評)
【2月13日特記】 かなり読むのが遅い人でも15分あれば読み終わるだろう。これは赤瀬川原平の「こどもの哲学 大人の絵本」シリーズの1冊で、「お金って一体なんだろう?」という素朴な疑問に対する素朴な答えを赤瀬川なりの感性で導き出した本である。
ここには子供にも解るような巧みな比喩がある。第1章は財布はガンマンの拳銃や侍の刀みたいなもんだという話。第2章は現金は血液みたいなもんだという話。等々。
比喩というものは実は危険なものである。喩えとは、AとBという全く別のものの共通点を見つけ出し、BによってAを説明する作業なのだが、そのうちにAとBが全く同じものであるかのような錯覚に陥ってしまうとどんどん逸れて行ってしまうのである。
例えば、第1章の例を借りれば、「財布は侍にとって刀みたいなもんだろう? 侍は刀を肌身離さず持っているだろう? そんな大事なものを他人に預ける奴はいないだろう? だから銀行預金なんてしちゃダメなんだ」なんてことになってしまう。
この本は(いや、この本でなくてもそうなのだが)そういう読み方をしてはいけない。僕はこの本は赤瀬川の詩集であると思った。
子供の頃からよく解らなかったお金というものを、大人になった彼の身の周りから解きほぐそうとするその試みには何とも言えない味がある。それこそ詩情を感じさせる。犬の散歩から手形の仕組みを理解してしまう感性は赤瀬川ならではのものであり、僕にとってはこれは「ふしぎなお金」ではなく「ふしぎな赤瀬川原平」であった。
あとがきにこう書いてある。「疑問というのは、解決すると科学になるが、解決しない疑問は哲学となる」。そして、哲学を持つ者が文章を書くと、時としてそれは詩になったりもするのである。
読んで損はない。100%お金のことを理解できるかどうかはともかくとして、なんかお金というものの「感じ」は掴めたような気がするし、なによりもホワ~ッとしたとても良い気分になれる本だ。
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