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Monday, January 23, 2006

映画『博士の愛した数式』1

【1月23日特記】 映画『博士の愛した数式』を観てきた。

僕は小川洋子の『博士の愛した数式』を読んだ上でこの映画を観た。

原作ものの映画の場合、原作を読んでいる人と読んでいない人とではなかなか感想を共有できないものだ。原作を読んだ者にはどうしても原作と映画の差が気になって、何を考えるにもその差が起点となってしまうからだ。

まず、寺尾聡と深津絵里では(あくまで僕という読者にとってはの話だが)原作の博士と家政婦のイメージに程遠い。

原作によると、確かにもともとはハンサムであったかもしれないという記述はあるが、家政婦が会った時点での博士はもう少しみすぼらしい。身長も160cmそこそこだ。

もちろん、そのことに忠実に、背の低いみすぼらしい男優を主演にすると客が来ない恐れが大きいので、映画版ではもうすこしカッコイイ俳優を、という配慮をしたのだろうと理解はしているのだが・・・。

そして、家政婦についても、僕は深津絵里よりもう少し落ち着いた感じの人をイメージしていた。

まあ、そんなことは良い。自分のイメージと違う俳優が演ずるとそれだけでもうダメというものではない。

例えば WOWOW が川上弘美の『センセイの鞄』をドラマ化したとき、僕は柄本明と小泉今日子というキャストに強い違和感を覚えた。しかし、ドラマ全体を通じて描かれたセンセイとツキコは原作の2人のイメージそのものであったので非常に驚いた記憶がある。

つまり、描かれたエッセンスは WOWOW と僕の間で見事に共有できたのであって、僕がキャストを聞いて覚えた違和感は枝葉末節の差分の集積でしかなかったからである。
そういうことだってあるのである。

ただ、『博士の愛した数式』の場合は、残念ながら共有できる部分は非常に小さかった。

なんだか、とてもじめっとした、ベタッとした仕上がりだった。音楽がまた相当大仰で、「さあ盛り上がれ、ほれ感動しろ」と迫られているような気がした。博士の住まいを山の中の別荘みたいなロケーションにしたのも余計なことのように感じた。

小川洋子の作品は部分的に非現実の世界と繋がっており、それはあくまで設定の一部に過ぎないのだけれど、それが作品全体をほわっとした浮世離れした印象に仕上げているところが魅力である、と僕は思っている。

ところが、この映画では「記憶が80分しか続かない」という極めて非現実的な設定が現実の世界にしっくり収まりすぎているような印象がある。

小説の場合は読者の想像力によって補われたり膨らんだりするところがあって、そして補われたり膨らんだりするとは言っても、それは読者の頭の中で決して輪郭のはっきりした像を結んでいる訳ではないので、それゆえ獏とした雰囲気を形成することになる。

一方、映画の場合は全てを映像として固定する必要があるので、輪郭をはっきりさせずに雰囲気だけを残すことが、小説よりも遥かに困難な作業になってしまう。その分、なんだか安っぽい部分だけを掬い取ったような作品になってしまう傾向があるのである。

貶してばかりいるように見えるが、この小説をこういうふうに映画化するのもアリではないかと言われれば、もちろんそれはアリだと思う。自分たちの感性で、それをどうこなして行くかが監督の手腕なのだから。

特に、成長して数学教師になった息子“ルート”を狂言回し役で登場させて、数学面の解説を彼にさせるというアイデアなどは秀逸だと思う。

ただ、どうしても合点が行かないのは、パンフレットに佐藤忠男氏が「小川洋子による評判の小説のほぼ忠実な映画化」と書いていること。佐藤忠男氏は有名な映画評論家ではあるが、何であれ、これを「忠実」と称するようでは小説の読解力はゼロとしか言いようがない。

これは忠実な映画化ではない。映画そのものを気に入るか気に入らないかは全く別の話として。

でも、この映画を気に入る人は多分原作を読んでいない人なのではないかなあ、というのが僕の想像である。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました

アロハ坊主の日がな一日
Swing des Spoutniks
That's the Way Life Goes

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Comments

TBありがとうございます。
お久しぶりです。

僕はなぜいまいちだったのかyama_eighさんほど捉えられなかったですが同意見ですわ。僕はこの手の作品は、どうも性に合わないようです。
ちなみに、一緒に観た知り合い二人は、原作も読んでいたので余計に物足りなさは感じてたようです。

では、では。

Posted by: アロハ坊主 | Thursday, January 26, 2006 at 01:54

> アロハ坊主さん

まいど。アロハ坊主さんの記事を読んで全く同感だったのでコメント書こうとしたのですが、コメント欄がなくなってたのでTBだけにさせてもらいました。

ピンと来ない出来でした。

Posted by: yama_eigh | Thursday, January 26, 2006 at 09:45

こんにちは、TB・コメントありがとうございました。
私も『センセイの鞄』のドラマ版が放送されたとき、少しだけ見たことが
あるのですが、全体の雰囲気が原作と良く似ているなと
感心したものでした。これも、川上弘美と久世光彦の信頼感によるもの
なのでしょうか。
小説から映画にするのは、いわば二次元から三次元にするようなものですね。
その過程で、もろもろの困難があるだろうと思います。

そもそも、長編・中編小説を映画化すること自体、なかなかに難しいことですね。
『空中庭園』や『ジョゼと虎と魚たち』など、良い原作もののほとんどが短編です。
内容を自由に膨らませられる分、映画ならではの良さも出てくるのでしょう。

Posted by: 丞相 | Friday, January 27, 2006 at 09:23

初めまして。博士の…は原作のファンで映画もとても楽しみにしていました。原作とは話の筋がかなり違っていたのでちょっと残念でしたね。
センセイの鞄はドラマを見そこなったので、DVDを買おうか悩んでいます。キョンキョンと柄本さん、と聞いて違和感がありましたが、良いんですね。買う事にしました。

Posted by: みかんのママ | Saturday, February 04, 2006 at 20:44

> みかんのママさん
  (ところで、この名前のリンク死んでますよ)

こんばんは。

キョンキョンと柄本のツキコとセンセイ、違和感があるなあと思って見始めたら知らないうちに引き込まれてました。

見て損はないと思うなあ。でも、損したと思ったらゴメンナサイ。

Posted by: yama_eigh | Saturday, February 04, 2006 at 22:07

こんにちは。勝手にTBさせていただきましたのに
コメントと逆TBをいただき、ありがとうございました。

WOWOWの「センセイの鞄」、私はダメでした。
小泉今日子は年寄りと恋愛しそうに見えないから^_^;
イメージが合わないとかでなく、
最後までツキコさんに見えなかったのでした。
その点「博士」の深っちゃんはよかったと思ってます。

Posted by: mambotaxi | Sunday, February 05, 2006 at 15:38

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