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Sunday, December 18, 2005

映画『ゲルマニウムの夜』

【12月18日特記】 映画『ゲルマニウムの夜』を観てきた(上野・一角座)。

普段新宿近辺で観ることが多いのに何故上野まで足を伸ばしたかと言うと、日本中でここでしか上映してないから。

いやあ、遠かった。降りつけない上野駅ということもあって、公園口ではなく中央改札から出てしまったのがまず敗因。東京国立博物館の敷地内だが西門まで行かなければならないのが2つめの誤算。「あかん、早う行かんと立ち見になる」と焦って寒風の中を猛烈な勢いで歩いたが、行ってみたらガラガラ。

おいおい、上映2日目の日曜日の第2回にしてこれかよ。まるで大昔の大阪球場の南海対近鉄の試合みたいに観客を数えられる。いや、数えるまでもなく、僕を含めて4人しかいない。

上映開始が6分遅れたので(しかし、遅れるか!? 芝居は開演が遅れるのが常識でも、映画は予定通り始まるのが常識なんじゃないの?)最終的には150人の箱に28人の客に達したが、それでも淋しい。あゝ、荒戸源次郎プロジェクト、またしても破綻か?

実は昔ウチの会社も荒戸作品に出資したことがあって大損こきましたけど、毎度上質の作品送り出してるんだから頑張って黒字にしろよ、荒戸のオヤジ。なんせ便所が外にあるようなプレハブ造りの映画館に、入場料で2,000円(これは東京国立博物館の観覧券がセットになってるから)とパンフに1,000円の都合3,000円も払ったんだからね。

そう言えば、切符買って入場したらロビーでスタッフに偉そうになんか言ってる爺さんがいたけど、後から気がついたのだが、これが荒戸源次郎本人だった。

さて、気を取り直して中身の話を書こう。

花村萬月の小説はいくつか読んでいるが、これは読んでいない(まあ、でも観る前に想像ついたけどね)。で、監督は大森立嗣。麿赤兒の息子、大森南朋の兄。そして、画面上名前はクレジットされていないが、バックに控えるのがご存知荒戸源次郎。

──この辺がこの映画の話題性なのだろうけど、僕が見に行ったのは主演の新井浩文に惹かれたから。

新井浩文と言えば、『青い春』(豊田利晃監督、残念ながらこれは観ていない)でいきなり松田龍平の相手役に抜擢されたり、最近では『血と骨』(崔洋一監督)でビートたけしの息子役を演じたりしたのが有名だが、僕の脳裏に焼きついて離れないのは『赤目四十八瀧心中未遂』(荒戸源次郎監督)の毎日臓物運んでくる兄ちゃんの役。これ、強烈な存在感でした。

この映画が初主演なのだが、まさにあの線で、強烈な個性の、重い光を放っている。

映画はいきなり吹雪の中のぬかるみを歩く牛の画で始まる。暗い映画だ。映像もストーリーも暗い。

で、カットが変わると、石橋蓮司演じる牧師がラテン語の聖書を音読している。カメラが引くと隣に新井浩文。もっと引いて2人のフルショットになると、なんと新井が左手で石橋のチンコしごいているのである。

そう言えば ecstasy という単語は元々「神の存在を体感した時の恍惚忘我の境地」を指す。ここでもそれが性的な快感に転用されているのである。

しかし、それにしても、「もし自分が石橋蓮司だったら、あの歳であんな役やるの嫌だなあ」などと思ってしまった。この時点で僕の負けですね。

そこから先、もうあまり詳しく書かないけど、そういうシーンがいくつも出てきます。だから、そういうの苦手な人は見るなとは言いませんが、心して見るように。

新井浩文は、今までの映画と同じようにあまり喋らない。何の説明もなく退廃的なシーンがいくつか続き、こいつが何者で何をしようとしてるのかは却々明かされない。ただ、教会に住んでいて牧師たちの「世話」をしてたり、牧場で家畜の世話をしてたりする。

男や動物に暴力を振るう。女を陵辱する(でも、映画が始まった時はまだ童貞)。同性の間でも性的な行為が頻繁にある。聖職者をなぶりものにする。そして時々ゲルマニウム・ラジオを聴く。

ともかく花村萬月の世界の忠実な映像化ではある。カメラワークも抜群である(特に新井と早良の2人にゆっくりゆっくり寄って行くところ、俯瞰のセックスシーン、絡んだ足のアップなど)。だが、映像化してしまうとイメージが固定化してしまって、そのために嫌悪感を誘発している面もあるのではないだろうか?

舞台挨拶での発言を聞いていると、大森監督は日本映画界に対する遣る方ない怒りを覚えているようだ。その分、映画の中に怒りが出すぎたのではないか? いや、あるいは逆に怒りが足りなかったのかもしれない。

見終わった後、中途半端な悪意が残るのである。後味が良くない。いや、これは僕の特性かもしれない。僕は『血と骨』に対しても反感が残ってあまり高く評価できなかった。

怨念がある。それだけに尾を引く映画である。観客に正面から斬りつけて来る映画である。神を冒涜する姿を描いていながら非常に神学的な映画でもある。ブラックホールみたいなマイナスのエネルギーを放出する映画である。

印象は非常に強い。brochure1

映画が終わった後、大森監督と出演女優の早良めぐみさんに、パンフレットにサインしてもらった。

早良さんのスッポンポン、ものすごく綺麗だったので、なんかとても恥ずかしかった。

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Comments

はじめまして。
コメント&TB失礼します。
先日、インターナショナルデイと銘打っての字幕付公開を見ました。
結構入ってたのですが、
前に座っていた外人の女性は豚のアレを切られたところで退場してました。
そしておそらく荒戸さんと思われる老人はその日もいました。
「トイレはどこですか」と聞くと丁寧に、
しかし威圧感たっぷりに教えてくれました。
どうも色々重くのしかかってきます。

Posted by: 現象 | Saturday, December 31, 2005 23:50

> 現象さん

そう、重くのしかかってくる映画なんですよね。

荒戸の爺さん、昔は軽やかに笑い飛ばして行くような映画も作ってたんですけどねえ・・・。

Posted by: yama_eigh | Sunday, January 01, 2006 00:13

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