映画『いつか読書する日』
【9月4日特記】 映画『いつか読書する日』を観てきた。いやはやなんとも、えらい映画があったもんだ。
始まってすぐ、池辺晋一郎の音楽がなんか不吉な感じ。決して不吉なメロディではないのに張りつめたアレンジがなんか禍々しい。その音楽の中を牛乳配達の田中裕子が牛乳瓶を詰め込んだバッグを抱えて走り抜ける。坂道・階段だらけの街。その階段を走って走って息を切らして駆け上る。
高校時代につきあっていた相手を50歳になっても忘れられない男女。
女のほうは独身を通し、朝は牛乳配達、昼はスーパーで働き、夜は読書とラジオ。男への思いは誰にも知られないよう隠し続けている。
岸部一徳が演じる男のほうは市役所に勤めながら末期癌の妻を看護する生活。彼が女に思いを残していることはほとんど読み取れない。ただひとつ飲めもしない牛乳を毎日配達してもらっていること以外は・・・。
仁科亜希子が演じる岸部の妻は2人の思いに気づき、自分が死んだら2人に一緒になってもらいたいと願うようになる・・・。
男のほうは女に思いを残しているとは言え、毎朝路面電車の駅で自転車でスーパーに向かう女が通り過ぎることを知っていながらわざとそっぽを向いている。市役所の帰りに女が働くスーパーで買い物するのだが、彼女のレジには並ばない。目も合せようとしない。
なんじゃ、こりゃ?
で、男は言うのである。
「俺さ、若いころにさ、絶対平凡に生きてやるって決めたんだよ」
そんなこと思う奴、いるかぁ!? で、その後こう続ける。
「必死になって、そうしてきたんだ。邪魔なんだ、あの人」
それを聞いた妻が言う。
「あなたはね、ずっと気持ちをね、殺して来たのよ。気持ちを殺すって、周りの気持ちも殺すことなんだからね」
すごいね、この辺のやりとり。観る人の邪魔にならないよう、これ以上書くのはやめる。多分なんか賞を獲るんじゃないかな、この映画。キネ旬ベスト10には入るでしょう。
この映画のラスト近いシーンで僕が思い出したのはパトリス・ルコント監督の『髪結いの亭主』。両方見れば解ります。
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