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Saturday, July 16, 2005

『マオⅡ』ドン・デリーロ(書評)

【7月16日特記】 怒涛の巨編『アンダーワールド』の1つ前の作品であるこの『マオⅡ』は、デリーロの作品の中ではずば抜けて読みやすい作品ではないだろうか?

登場人物は少ないし、いくつものストーリーが輻輳することもなく、筋立てもはっきりしている。ただし、例によって現代に溢れる様々な事象が織り込まれており、従って読みやすさは次第に減退し、終盤にたどり着く頃にはいつも通り頭がクラクラしてくる。

時は1989年。小説はヤンキー・スタジアムでの統一教会の合同結婚式で幕を開ける。プロローグが終わり第1部に入ると、かつてのサリンジャーのように隠遁生活に入ってしまった作家ビル・グレイが登場する。これが4人のメイン・キャラクターのうちの1人である。

そしてそこから話は縦横無尽に展開し、同年に起こった天安門事件やホメイニ師の死、レバノンの内戦、テロの激化など様々な要素が小説内に投げ込まれて、デリーロ特有の混沌としながら啓示に満ちた世界が示される。

ビルは「自分もいつか熱狂的な読者に撃ち殺されるかもしれない」という強迫観念に駆られており、一方でテロリストを「大衆の意識を作家と取り合う存在」と捉えている。

彼はやがて隠れ家から逃れ、テロリストの人質となった詩人の解放運動に参加するためロンドンに飛び、そこからまた逃れて最終的にはベイルートのテロリストの首脳に会いに行こうとする。

こうやってストーリーを書いてしまうとちょっとサスペンスっぽい作品だと誤解されるかもしれないが、実はこの本のテーマは「群集」である。そして、その答えの1つは219ページに端的に書き表されている──「群集は、また別の群集によって取って代わられるもの」。

作品の中でも次から次へと群集が現れる。合同結婚式の参加者と観衆。天安門事件の民衆と軍隊。ホメイニ師の死を悼む群集。サッカーのフーリガン。アンディ・ウォーホルの絵画「群集」、NYの公園のホームレスの群れ…。

ちなみにタイトルの『マオⅡ』はウォーホルが書いた毛沢東の素描画のタイトルである。テロを扱ったこの作品の中で何度か9.11で崩れ落ちる前の世界貿易センタービルが描かれていてドキッとした。続く『アンダーワールド』ではこのツインタワーの写真が表紙になっている。

この作品も『アンダーワールド』同様、途轍もなく深い。

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