『死体はみんな生きている』メアリー・ローチ(書評)
【3月10日特記】 皆さんは本を買った時にまず目次を読みますか? 私は読みます。小説ならざっと、ノンフィクションならかなり入念に。小説などの場合は下手な章題をつけられるとネタバレになってしまうので考えものですが、論文やエッセイなどの場合、目次はかなり精度の高い要約なのです。
それでこの本なんですが、私は目次を読んでいる段階で「しまった、とんでもない本を買ってしまった!」と大いに後悔してしたのでした。
死んでしまった人の体が、生き残った(あるいはこれから生まれてくる)人たちの明るい未来のためにさまざまな研究に使われているというのは却々興味深いテーマです。ここでは死体が、我々が想像もしなかった「用途」に供されているさまが克明に綴られていて、それはそれで意義も感銘もとても深いのですが、そもそも私は(たとえ死んだ人であっても)肉体を切ったり縫ったりする類の話は大の苦手なのです。
この本、目次を読んだだけで結構「来てます」。
仕方なく読み始めたんですが、確かに面白いのなんのって。特に死体が交通事故の衝撃試験ダミーに使われているなんて話(第5章)全く知りませんでした。「死体がすば抜けて得意なことが一つある。痛みへの対処だ」(107ページ)などという皮肉の利いたユーモアたっぷりの表現も随所に出てきて、読む者を飽きさせません。
ただ、第9章「頭だけ」第10章「私を食べなさい」あたりはかなりのグロで、これは読んでいるだけで胸がムカムカしてきます。食前食後の読書(私の場合がそうでした)は決してお薦めしません。
この本の原題は STIFF で、これは米口語で「死体」のことらしいのですが、私が知っていたのはその素となった「硬直」という意味です。この本、読んでいると確かに自分の体が強張ってきます。
さて、あなたはこのハードルを越えられますか? 越えられさえすれば、非常に興味深く面白く、目から鱗の良書です。私の場合はハードル踏み倒しながらなんとか走り抜けたという感じ。でも、ご安心ください。写真は1枚たりとも掲載されていませんから。これは著者の良心ではないでしょうか?
良心ある著者による良心ある書物であることは間違いありません。
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