『藁の楯』木内一裕(書評)
【1月6日特記】 奇想天外な話である。警視庁のSPである主人公が幼児誘拐殺人犯を福岡から東京まで護送するのであるが、被害者の祖父である財界の大物が犯人に10億円の懸賞金をかけたために、犯人の命を狙う者が次々と襲い掛かってくるという物語である。
最初、読み始めたときには何という薄っぺらい文章かと思い、そのことが引っ掛かってストーリーが追えないほどだった。
やたらと改行が多く、それに比例して叙述は淡白と言うのを通り越して貧弱である。単なる「あらすじ」とまでは言わないが、およそ小説とは言いがたい、あらすじと小説の中間みたいな存在だ。もっと文章力と構成力のある作家がちゃんとこれを書いたらもっともっと重厚な力作になるのにと思うと残念でならなかった。
ところが、読み進むにつれて、この次々と新たな展開を迎える速いストーリーにはこういう記述が向いているのかもしれないという気さえしてきた。実際にこういう展開が起こり得るのかどうかはともかくとして、確かによく練り込まれた構成ではある。息つく暇さえなく状況は刻々と変化し、主人公はそのたびに追い込まれて行く。
ものすごく薄っぺら。でも、まあ、面白いから良いか、という感じか。
もしも、例えば高村薫がこの作品を書き換えたとしたら、恐らく倍の分量の、非常に読み応えのある大著になったであろう。
「あまり分厚い本は読む気にならない」と言う方にはオススメである。
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