『性の用語集』井上章一&関西性欲研究会(書評)
【1月18日特記】 まず著者名からして怪しい。代表者名とグループ名を「&」で繋ぐという、昔のムード歌謡グループみたない名前なのだが、その後半部分を見るととてもまともな人たちとは思えない。
アブナイ嗜好を持つ人たちによるキワドイ本ではないかと思ってしまいそうだが、しかし、実際本を手に取ってみると極めて真面目な研究者たちによるまともな研究報告である。
ところが、読み進むうちに、この真面目な研究者の中には大学の先生だけでなく、自身が筋金入りのニュー・ハーフである研究家もいることが判ってきて2度びっくりである。
ここでは性に関するさまざまな用語が広く取り上げられ、そのひとつひとつについて、なぜそう言われるのか、その語源は、そしてそのことを表す単語にはどのようなバリエーションがあって、どういう変遷を辿ってきたか、そしてそこにはどのような社会情勢や意識が反映されているか、などが丁寧に解説されている。
一例を挙げれば、上で「広く取り上げられ」と書いたように、ここには「立小便」などという単語も取り上げられている。男性が小用を足す際にはトイレであろうと路上であろうと、どちらにしろ立ってするものなのに、何故屋外の時だけ「立小便」と言うのか?
──僕自身にとって長年の疑問であり、あるいは人が普段は見過ごしていながら聞けばなるほどと思うような事柄を、古今の文献を紐解いて見事に実証あるいは推理してくれる。この姿勢は本全体を通じて一貫している。
いやあ、こんな本が読みたかったのである。いや、正直言えば自分で調査して執筆したかった。しかし、これだけの文献に当たってこれだけの著作を物するためには、やはりこれくらいのグループ・ワークでないと無理なのだろう。
極めて濃い内容の本である。性の道は果てしないと痛感した。
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