『言葉の常備薬』呉智英(書評)
【12月30日特記】
【まえがき】でいきなり産経新聞の校閲部長を槍玉に挙げている。その書きっぷりが結構激しいので、おいおいそんなに怒って書いたんじゃ面白さが半減するよと思っていたら本編に入って落ち着いてきた。
この人はちゃんと言葉の不思議を理解しているのである。だから何でもかんでも罵倒しようという姿勢ではない。「俗語をとがめてもしかたがない」と書いている。「言葉には雅俗の別があり、使う人、使う場合に応じて、それぞれに使い分ければいいのだ」と鷹揚である。
自らは言葉の専門家ではないと言いながら、大工がいい仕事をするために樹木の見識を深めたり、板前が魚について詳しくあろうとするように、自分も言葉に対する「職人の知恵」を身につけるべく心掛けてきたと言う。
この本は、その言葉を裏付けるべく薀蓄てんこ盛りである。決して糾弾の書ではない。やや独断めいた記述もあるが、いずれの章にも茶目っ気がある。小洒落たオチがついているものも少なくない。そういう文章だから読んで面白い。そこが大切なところなのである。
日本語ブームに乗っかって、あれが正しい日本語、これは誤った日本語だと教えてくれる本ではない。文章の切れ味と博覧強記の薀蓄を楽しむ本なのである。
ところで、僕が呉智英の本を初めて買って読んだのが6年前なのだが、それまで僕は著者の名前を「ご・ちえい」と読んでいた。それは間違いで正解は「くれ・ともふさ」である。
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