『直観でわかる数学』畑村洋太郎(書評)
【11月26日特記】 一番意地の悪い言い方をすれば、これは単に著者にとっての「直観でわかる数学」でしかない。
もっと虚心坦懐に言えば、どのように説明すれば直観で理解できるかは人によってさまざまで、「はい、これで全員直観でわかっただろう」と言われても困るのである。
などと書くと「そんなひどい本なのか」と思われるだろうが、いやいや、決してひどい本ではない。僕自身「ふんふん、なるほど」と納得したり「なるほど、うまい説明の仕方だ」と感心しながら読んだ章もある。ただし、「それがどうした?」とか「うーん、そうかなあ?」と思った部分もある。
この本には7つの章があり、それぞれ(1)三角関数(2)行列(3)指数・対数(4)虚数・複素数(5)微積分(6)微分方程式(7)確率、を取り上げている。
考えてみれば、自分の理解度が低かったジャンルほど著者の説明に納得してしまう傾向があった。これは、言い方を変えれば、僕が自分でそこそこ理解していると思い込んでいる分野については、実は著者が言うところの「頭が形式論理にどっぷり漬かっている」という状態に過ぎないのかもしれない。
しかし、それにしても、書きっぷりがあまりに独善的なところにどうしても引っ掛かってしまうのである。「こんなことは学校では誰も教えない」みたいなことが何度も書いてあるのだが、「お前は日本中の全ての学校の全授業を見たのか?」と突っ込みたくなってしまう。
著者自身がこの本の中で、小学校時代に先生の説明に納得が行かなくて楯突いた経験談を語っているが、実は読者に対してある種同様の不快感を与えてしまう恐れもあるのではないだろうか。「僕はこんな風に感じてきたんです」みたいに謙虚な文体にしてくれたら、もっと面白く読めたと思う。
しかし、繰り返すようだが、読んでいて確かに眼から鱗の部分もあり、新しい考え方のヒントを与えられた点もある。
如何せん、人の直観というものは千差万別なので、あなたがこの本に全面的に納得するかどうかはわからない。納得する人もいるだろう。まず、街の書店で、どの章でも良いから1章だけ立ち読みすることをお薦めする。それで「な~るほど」と思ったら、この本は「買い」である。
ただし、その店ですぐに買うのではなく、おうちに帰ってから bk1 に発注していただければありがたい、と店主に成り代わってお願いしておこう(笑)
(註記)ここに掲載されている一連の書評は全て「オンラインブックストア bk1」に投稿されたものでした(ただし、bk1 が honto に吸収されるまで)。
Comments