『ヘルタースケルター』岡崎京子(漫画評)
【9月1日特記】 読後感はひとことで言うと「暗澹たる気分」。
第8回マンガ大賞ほか多くの賞を受賞した超有名な作品だからクドクドあらすじを書く必要もないと思うけれど、全身整形手術によって完璧な美を手に入れた主人公りりこの成功と破滅の物語だ。
この作家の怖いところはとてもクールなところ。cool という単語は最近は「カッコイイ」と同義に用いられるようだが、ここでのクールはそういう意味ではない。本来の「冷静な」という意味だ。
作者はこの作品によって、綺麗になるためなら手段を厭わない風潮を糾弾しようとしているのではない。かと言って「それでもやっぱり綺麗になりたいよね」という女性共通の思いに優しく共感しているのでもない。だからと言ってそういう気持ちを冷たく突き放しているという態度でもない。
ただ、中立で冷静な観察者の態度。そして、その観察の対象はりりこという特定のキャラクターでも世間一般の女性でもなく、恐らく彼女自身の中に巣食う魔物なのだ。それが怖い。
グロテスクな作品である。ただ、グロテスクだからと言って拒否反応を起してしまう読者は、多分自分のグロテスクさにまだ気づいていない人たちなのではないだろうか?
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