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Thursday, September 30, 2004

『ドリーマーズ』ギルバート・アデア(書評)

【9月30日特記】 1930年代から1968年までの映画について造詣が深くなければ、十全にこの作品を楽しむことは無理なのかもしれない。しかし、少なくとも若い世代特有のマニア的な熱狂については理解できるし、それさえ理解できれば読めない本ではない。

フランスの5月革命を背景にしているので、この辺の事情もできれば事前に知っておいたほうが良いだろう。映画に熱中し、と言うか没頭してしまった双子の兄妹とその友人の少年。いずれもアンリ・ラングロワが事務局長を務めるシネマテーク・フランセーズの常連である。そのラングロワが政府の圧力で解任され、それに抗議する動きが5月革命と呼応する。

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Saturday, September 25, 2004

『すきもの』前川麻子(書評)

【9月25日特記】 まったく、この作家、一体何者なんでしょうね? ふーむ、ため息、と言うより熱い吐息が漏れてしまう。

恐らく世間の興味は「女性がこういう小説を書いた」という一点に集中してしまうのでしょう。だって、すごいもん。

我々男性の目からすると、小説でもマンガでも映像でも、女性の作り上げたポルノと言うのはどこか食い足りなかったりするものです。ところが、この作品は全然そんなことありまっせん。行けるところまでイってしまいますよ、これは。

ちゃんとハードカバーになって上品な装丁してあるけど、内実はスポーツ紙のピンク・ページに載っている連載小説と同じようなものです。僕は基本的に電車の中でしか本を読まないのですが、これ読んでる時は周りの目がかなり気になりましたよ。そのくらいのエロさです。

ただし、ポルノを離れて評価すればどの短編も小説としてかなり上質の部類で、余韻たっぷりで、深い読後感が残ります。

ま、どこかで線を引いてポルノと文芸を分け隔てようなんて気は僕にはないですけどね。それはこの作家も同じだと思います。

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Monday, September 13, 2004

『アフターダーク』村上春樹(書評)

【9月13日特記】 1行目からちょっとびっくり。おや、村上春樹はかなりスタイルを変えてきたな、って感じ。

ここで言うスタイルとは文体と構成。なにせ主語が「私たち」だ。今までこんなスタイルはあっただろうか? 一人称単数以外で書かれた小説って少なかったのでは?

「いや、あの小説は三人称だった」みたいな指摘は多分マニアの方がやってくれるだろうから僕は穿鑿しないが、村上の小説は大体が主人公自身が語るか、そうでないにしても(そうでない小説が実際にあったかどうか僕はちゃんと憶えていないのだが)語り手は主人公にかなり近い場所にいたはずだ。

それが今回は「私たち」であり、しかもその語り手はカメラという、かなり引いた位置にいて観察し、語る。うーむ、今までとはかなり違う。

そして、冒頭から9ページの1行空けてあるところまでのいくつかのパラグラフは今までならなかったのでは?

その次の段落の冒頭はこうだ──「彼は声をかける、『ねえ、間違ってたらごめん。君は浅井エリの妹じゃない?』」──そう今まではここまで直截ではないにしても、ほぼこれに近いくらい直截に物語は始まった。少なくとも、この『アフターダーク』のように夜の街をクドクドと描写するばかりで殆どストーリーが進行しないままなんてことはなかったはずだ。

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Friday, September 10, 2004

『パラレル』長嶋有(書評)

【9月10日特記】 こういう軽くて情けない主人公、そして軽くて乾いた文体というのは新鮮なようで実はありがちなパターンなのです。あるいは、書けそうな文章なのです。ひょっとしたら誰か他の人が書いているかもしれない小説なのです。

だから、この作家を最も特徴づけているのはこの文体や手触り感ではありません。確かに抜群に文章力のある作家ではあるけれど、実はこの作家の最も優れた点はストーリー運びなのです。

と言っても、ウダウダした日常の描写が続くばかりで、劇的なことは何も起こりません。その代わり、インシデントと言うか、小さな事件ばかりが次々とあるのです(そう、「起こる」と言うよりも「ある」という感じ)。

その小さな事件の一つひとつがとてもスムーズに縫い合わされているのです。小説を書いてみたことがある人にしか解らないかもしれませんが、こういうお話を作り上げるのはものすごく難しいことなんです。僕はその能力に感嘆してしまいました。

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Wednesday, September 01, 2004

『ヘルタースケルター』岡崎京子(漫画評)

【9月1日特記】 読後感はひとことで言うと「暗澹たる気分」。

第8回マンガ大賞ほか多くの賞を受賞した超有名な作品だからクドクドあらすじを書く必要もないと思うけれど、全身整形手術によって完璧な美を手に入れた主人公りりこの成功と破滅の物語だ。

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