『イン・ザ・プール』奥田英朗(書評)
【8月22日特記】 誤解のないように最初に断っておきますが、この小説はかなり面白いです。
しかし、ただ面白いだけでは世の中の他の面白いことに紛れて特色が薄れてしまいます。そうなると勢い終わり方勝負になってきます。どのように終わってどう余韻を残すか──それがリピーターの読者を獲得できるかどうかの鍵になるのです。
5編の短編のうち、冒頭の表題作の終わり方があまりに鮮やかで見事だったので、こりゃあ行けると膝を叩いたのですが、しかし、次第に息切れ。なんとならば、どれもこれもみな同じなんですね。どこまでも脳天気で破天荒、と言うよりは破廉恥な精神科医・伊良部が不思議に患者を癒して行く物語です。呆れるくらいの同工異曲。
これはきっと映画化すると良いですよ、寅さんみたいな連作映画化。あるいは古畑任三郎みたいなTVシリーズ。「偉大なるマンネリ」という言葉があるように、これは巧くすると何十作も続くドル箱になるかもしれません。
しかし、ハチャメチャなように見えてあまりにハートウォーミングな話がこうまで続くと、なんか教訓を植えつけるために書いているみたいで、その分薬臭く、教科書臭くなってきて、それが僕の興味を削ぐのです。映画化されたとしても、多分僕は最初の1作しか見ないだろうなと思います。
まあ、僕ほどひねくれてない人は読み続けなさい。それから、ひょっとしたら、本当に心に大きな悩みを抱えている人が読んだら良いのかもしれません。
良い話ですよ。筆運びも滑らかだし。サイド・キャラの看護婦も非常にアブノーマルで魅力的だし。
いや、ほんとに面白いんですって。ただ、何作も何作も続けて読みたい話ではないというだけです。さっきも書いたけど、こんなに貶していても、映画化されれば多分最初の1作は見ますってば。
え? それじゃあ褒めてるんだか貶してるんだか判らないって? そりゃそうでしょうとも。書いてる本人がはっきりしないんだから。じゃあ、自分で読んで確かめてみてよ。面白いよぉ。
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