『好き好き大好き超愛してる。』舞城王太郎(書評)
【8月30日特記】 舞城王太郎作品は僕はまだ3作目で、この手のジャンルについては舞城以外に馴染みがないのだが、なんかすごくない? すごいよ、これ! 外側はハチャメチャに見えても内側は濃縮した純愛小説。しかも、かなりの名作。涙が出そうなほど、いや、冗談じゃなく。
『好き好き…』と『ドリルホール・イン・マイ・ブレイン』の2作が収められていて、前者はさらにいくつかの短編に分かれていて、柿緒っていう女の子と一人称で語られる治の2人を巡る3部作と、それとは別の話が交互に配されている。
それぞれの話は、例えばASMAっていう訳の解らない病気が出てきたり夢の修理屋が出てきたり、神と戦うっていう設定自体がよく見えない話であったりで、ついて行くのが辛くてもおかしくないのに、何故かスルスル読めてズルズル引き込まれて、結構ウルウル来たりしてしまう。
柿緒のシリーズも下手すると昼メロに出てきそうな「難病+純愛もの」なのに決してそんなレベルに堕ちない。
それは破天荒な話の中に愛の真理に触れた良い言葉が星のように散りばめられているからである。いや、ここではそれらの言葉を引用することはしない。平場でその台詞を見てもただ白けるだけである。このワケわかんない文体のワケわかんないストーリーの中でこれらの言葉に出会うからこそ、この言葉は輝くのである。
『ドリルホール…』のほうは、文字通り頭にプラスドライバーを突き刺された少年が、自分の脳内の別の世界に入り込んで世界を守る村木誠と言う別人格になる話で、ちょっと村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を思い起こしてしまったけれど、それよりはるかにスリリングかもしれない。
シュールなんてありきたりな言葉では片付けられないものすごい話なのだが、いつもながらのどこへ飛んでゆくか油断がならないストーリーの中に計算し尽くされたような硬い芯が埋め込まれた構成で、読みながら思わず唸ってしまう。
ともかく、なんかすごくない? すごいよ、これ! 言葉で言いつくせない。引用しないと書いたけれど1箇所だけ引用しよう。本の帯にもこれが引用してあったし、本の冒頭の文でもあるので、まあ良いだろう。──「愛は祈りだ。僕は祈る」
そして、この本を読み終わったとき、この台詞は読む前の100倍深いものになっているだろう。
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