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Monday, August 30, 2004

『夜のピクニック』恩田陸(書評)

【8月30日特記】 この本は到底僕には書けない。いや、読後感の話であって実際の話ではない。本を読んでも別に「この本は僕には書けない」と思わないケースも多いのだけれど、じゃあそういう本なら自分にも書けるかと言うと多分書けない。

しかし、世の中にはそういう自問自答をすっとばして、いきなり「僕には到底書けない」と思わせる本がある。

『未知との遭遇』で初めてスティーヴン・スピルバーグを知った時もそうだったが、あまりにレベルの高いものに出会うと、感動したり共感したりするのと同時に深い絶望感を味わうものだ。「僕はこいつには到底敵わない」という絶望感! この本はそれを与えてくれた。

群像劇、と言うか主人公がグループの形で登場する構成は『黒と茶の幻想』を思い出させるが、『黒と…』のほうは社会人でこちらは高校生の物語であるだけに、こちらのほうが軽く明るく甘く切ない。そう、これは正調青春小説なのである。

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『好き好き大好き超愛してる。』舞城王太郎(書評)

【8月30日特記】 舞城王太郎作品は僕はまだ3作目で、この手のジャンルについては舞城以外に馴染みがないのだが、なんかすごくない? すごいよ、これ! 外側はハチャメチャに見えても内側は濃縮した純愛小説。しかも、かなりの名作。涙が出そうなほど、いや、冗談じゃなく。

『好き好き…』と『ドリルホール・イン・マイ・ブレイン』の2作が収められていて、前者はさらにいくつかの短編に分かれていて、柿緒っていう女の子と一人称で語られる治の2人を巡る3部作と、それとは別の話が交互に配されている。

それぞれの話は、例えばASMAっていう訳の解らない病気が出てきたり夢の修理屋が出てきたり、神と戦うっていう設定自体がよく見えない話であったりで、ついて行くのが辛くてもおかしくないのに、何故かスルスル読めてズルズル引き込まれて、結構ウルウル来たりしてしまう。

柿緒のシリーズも下手すると昼メロに出てきそうな「難病+純愛もの」なのに決してそんなレベルに堕ちない。

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Sunday, August 22, 2004

『イン・ザ・プール』奥田英朗(書評)

【8月22日特記】 誤解のないように最初に断っておきますが、この小説はかなり面白いです。
しかし、ただ面白いだけでは世の中の他の面白いことに紛れて特色が薄れてしまいます。そうなると勢い終わり方勝負になってきます。どのように終わってどう余韻を残すか──それがリピーターの読者を獲得できるかどうかの鍵になるのです。

5編の短編のうち、冒頭の表題作の終わり方があまりに鮮やかで見事だったので、こりゃあ行けると膝を叩いたのですが、しかし、次第に息切れ。なんとならば、どれもこれもみな同じなんですね。どこまでも脳天気で破天荒、と言うよりは破廉恥な精神科医・伊良部が不思議に患者を癒して行く物語です。呆れるくらいの同工異曲。

これはきっと映画化すると良いですよ、寅さんみたいな連作映画化。あるいは古畑任三郎みたいなTVシリーズ。「偉大なるマンネリ」という言葉があるように、これは巧くすると何十作も続くドル箱になるかもしれません。

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Thursday, August 19, 2004

『ららら科學の子』矢作俊彦(書評)

【8月19日特記】 若い人は「この『ららら』って何だ?」と訝るかもしれないが、僕らの世代なら一目で『鉄腕アトム』の歌詞の一部だと分かるし、「らららかーがーくうーのこー」と節をつけて歌うこともできる。ところが、そのおかげで僕はとんでもない勘違いをしてしまった。

アトムからの連想で、これはSF作品だと思って読み始めたのである。30年前に失踪した主人公がタイムスリップしていきなり現代の日本に戻ってきた──そういう設定だと思い込んでいたのである。

実際には、学生運動のさなか、警官殺人未遂の罪を犯した主人公が中国に逃れ、そこで苦渋に満ちた30年を過ごした後に、密航して日本に帰ってきた、という設定である(従ってSFとは無縁)。いやはや、よくこんな設定を思いついたものだと感嘆するばかりである。

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Sunday, August 08, 2004

『すべてがFになる』森博嗣(書評)

【8月8日特記】 アイデア勝ち──「理科系の小説」と言われる森の出世作を文科系の読者である僕が読んでまとめるとこうなる。

文章は別に巧くない。人物の造形は非常に人工的で類型的。この手の小説には文章の巧さや人物造形の妙を求めない読者が多いだろう(いや、この程度のものでも褒められたりする)から、一般の読者に対してはそれで良いだろう。でも、僕のような読者にも途中で読むのを止めさせないのは、それ以外の要素があるから──それは、小説の骨組みとなる部分=構成=アイデアの勝利である。

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Sunday, August 01, 2004

『重力ピエロ』伊坂幸太郎(書評)

【8月1日特記】 最初に断っておくけれど、僕がこの手の小説を褒める時はトリックや謎解きの巧さを問題にしているのではない。そういう面での評価を知りたいのであれば、他の方の書評をお読みいただきたい。で、僕はこの小説を褒めたいと思う。

僕が小説を読む時に常に気にしているのは、ちゃんと文章が書けているか、とりわけ人物がちゃんと描けているかどうかということである。

文章の書けない作家(これはほとんど形容矛盾を来しているが)の場合、読んでいると文章のぎこちなさに引っ掛かってなかなかストーリーに集中できない。人物をちゃんと描けない作家は、ストーリーを説明するための言葉を登場人物に喋らせたりする。そうすると人物が崩壊する。優れた小説の登場人物は、一旦形成されると作家の手を離れて勝手に歩き出したり喋り出したりするものだ。

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