『柴田元幸と9人の作家たち』柴田元幸(書評)
【4月16日特記】 現代英米文学を代表する作家たちがいて、その翻訳家として日本を代表する柴田元幸がインタビュアーという形で現れ、インタビューの内容が日英両国語で書いてあって(しかもその肉声が付属のCDに収められていて)、そこに柴田の友人でもある村上春樹が加わる──「それだけ?」って言いますか?(僕は言わないけど)──それだけと言えばそれだけなのだけれど、それは漫然とそこにあるのではありません。言わば「結晶」してるんです。
僕は現代米国文学が好きで、その日本への紹介者としての柴田の翻訳力と本を選ぶ眼をとても信頼してます。村上春樹の旧くからの読者でもあり、そして何よりも英語が大好きです。ここには僕の好きなものが凝縮して揃っています。他の人はどう言うか知りませんが(なんて書くと、これから他人に本を勧めようとする書評としては失格かもしれないけれど、でもやっぱり書いてしまおう)、他の人はどう言うか知りませんが僕にとってはこれは宝物みたいな本です。
柴田が対談した9人のうち、ハストヴェット、ピアソン、ダイベック、パワーズ、オースター、村上の6人について、僕は少なくとも1冊は読んだことがありました。ブラウンについては、書店で何度か本を手に取りながら結局まだ読まずにいます。イシグロについては、もちろん名前は知っていましたが、一度も読もうと思ったことはありませんでした(英国の作家だからでしょうか?)。スピーゲルマンに至っては名前を聞いたことさえありませんでした。その程度でも、つまり、この9人の作家のうち6人しか読んだことがなくても、この本は充分楽しめます。
名前も知らなかったアート・スピーゲルマンは実は作家ではなくて漫画家でした。漫画家というとちょっと軽佻浮薄な感じがしますが、彼の展開する、映画『ライフ・イズ・ビューティフル』やアマドゥ・ディアーロ事件に対する見解はまさに眼から鱗でした。
インタビューを読んで、カズオ・イシグロについては『充たされざる者』を、レベッカ・ブラウンについては『犬たち』を、とりあえず読んでみようという気になりました(ブラウンについてはできれば原文でその文章のリズムを確認してみたいとさえ思いました)。作品と同じく、インタビューにおいてもかなり抽象的な論を展開するリチャード・パワーズが村上春樹を好きだと言うのは大変興味のある記事でした。
一番嬉しかったのは、T・R・ピアソンが「一番大事なポイントは?」と聞かれて「リズムだと思う」と答えているところでした。それは僕自身が bk1 に投稿した『甘美なる来世へ』の書評でリズムについての指摘をしていたからです。これは決して僕の読み方が正しかったということではなく、僕が作家と気脈を通じることができたということなのです。そう、この本はある種、作家と気脈を通じ合うことができる本なのです。
最初は、まず翻訳文を読んで、それから原文を見ながらCDを聴こうかと思っていたのですが、結局日本語と英語を1パラグラフずつ交互に読んでしまいました。原文があることによって読者と作家の繋がりはより濃密なものになります。
CDはまだ聴いていません。聴き終わったらCD評についても投稿しようと思うのですが、はて、bk1 にはCD評のコーナーありましたっけ?
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