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Sunday, May 30, 2004

『世界のすべての七月』ティム・オブライエン(書評)

【5月30日特記】 登場人物が多すぎて誰が誰だか判らない最初の章にげっそりして読むのをやめることはない。次の章になるとかなり読みやすくなるし、ストーリーに引き込まれて読むのをやめられなくなるはずだ。

この小説は1969年にダートン・ホール大学を卒業した数多くの人間を描いていて、巻頭の章で描かれるのが2000年7月の同窓会のシーンだ。そして、次の章では登場人物の一人デイヴィッド・トッドに焦点が当てられていて、彼がヴェトナム戦争で負傷して片足を失う顛末が生々しく語られる。

その次の章ではまた同窓会のシーンに戻り、その次の章ではエイミー・ロビンソンが52歳で結婚し、新婚旅行に行った先のカジノで信じられないほどの大勝ちをしたことがきっかけで一気に離婚に至る話が書いてある。その後も2000年7月の同窓会と、それから何十年か前の誰かのエピソードが交互に書かれているのだが、皆一様に悲惨な人生を送っているのが分かる。ひとりひとりについて、よくここまで悲惨なストーリーを思いついたものだと感心する、と言うよりげっそりする。暗澹たる気分に陥る。

しかし、思えば平和で幸福な人生などという代物は隣の芝生の上にしか見られないものなのかもしれない。誰だって多かれ少なかれ悲惨なことを乗り越えてきているものだ。我々のほうがこの登場人物たちほど劇的に悲惨な経験をしていない分だけ厄介な人生であるのかもしれない。

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Sunday, May 16, 2004

『柴田元幸と9人の作家たち』柴田元幸(書評)

【4月16日特記】 現代英米文学を代表する作家たちがいて、その翻訳家として日本を代表する柴田元幸がインタビュアーという形で現れ、インタビューの内容が日英両国語で書いてあって(しかもその肉声が付属のCDに収められていて)、そこに柴田の友人でもある村上春樹が加わる──「それだけ?」って言いますか?(僕は言わないけど)──それだけと言えばそれだけなのだけれど、それは漫然とそこにあるのではありません。言わば「結晶」してるんです。

僕は現代米国文学が好きで、その日本への紹介者としての柴田の翻訳力と本を選ぶ眼をとても信頼してます。村上春樹の旧くからの読者でもあり、そして何よりも英語が大好きです。ここには僕の好きなものが凝縮して揃っています。他の人はどう言うか知りませんが(なんて書くと、これから他人に本を勧めようとする書評としては失格かもしれないけれど、でもやっぱり書いてしまおう)、他の人はどう言うか知りませんが僕にとってはこれは宝物みたいな本です。

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