『黄昏の百合の骨』恩田陸(書評)
【4月6日特記】 僕のようなオジサンが、恩田陸のジュヴナイル小説と言っても良いミステリ群に夢中になって読み漁るのは、ひとえにこの作家の巧さ、筆の確かさによるところなのではないかと気づいた。
語彙の豊かさや表現力の多彩さと言った高度な点ではなく、まず語順や読点の打ち方の適切さ──作家としては当たり前のことかもしれないが、意外にちゃんとできていない人も少なくない──これがあるからこそ、書いてあることがすんなりと頭に入ってきて、読んでいて疲れない。読書が滑らかになるのである。
無論語彙も表現力も申し分ない。会話は会話らしく、決して会話で説明しようとはしていない。
この本でのトリックや謎解きは茶番なのかもしれない──しかし、他のところにも書いたことがあるのだが、僕はトリックや謎解きの巧拙にはほとんど興味がなくて、確固とした全体像があるかどうかという点に魅かれる。そういう意味ではまさに確固たる世界が確立している──重く淀んだ、謎に満ちた世界。
この小説は『麦の海に沈む果実』の続編である。シリーズ物が好きなのも僕の特徴である。2年前に書いた『図書室の海』の書評に「読む前に嵌れ」というタイトルをつけたが、文字通り僕は読む前から嵌ってしまっているのかもしれないし、そういう意味では公平でない書評なのかもしれない。
しかし、それにしても主人公の理瀬は魅力的な少女だ。亘が理瀬や稔に嫉妬して言った「そっち側」に僕もいるのだろうか。いずれにしても、僕と同じように嵌ってしまう人も少なくはないはずだ。
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