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Monday, March 22, 2004

『トゥルー・ストーリーズ』ポール・オースター(書評)

【3月22日特記】 困った。書こうと思っていたことが柴田元幸による訳者あとがきの1行目に書いてある。

「事実は小説より奇なり」──ドがつくほどありきたりなこの言葉、手垢にまみれたこの常套句はできればあまり使いたい類のものではない。しかし、柴田元幸もまた訳者あとがきをこの言葉から始めている。そう、これはそういう物語なのである。

柴田は言う──「ふつう我々はこの格言を、いわば時おりの真実と受けとめているにすぎない。つまり、たいていは小説のなかで起きる出来事の方が奇妙なのだが、時には事実も小説ばりに、あるいはそれ以上に奇妙なこともあるのだ、といった具合に」と。

僕は思う──我々は実は事実は小説ほど奇ならざることをよく知っている。たまに小説と同じくらいに、あるいはまれにそれ以上に奇なる出来事に出くわすと、感極まってこの格言を引き合いに出すのだ、と。

ここにはオースターの自伝だけではなく他人から聞いた話も含まれているのだが、確かによくもまあこんな偶然があるものだというストーリーが立て続けに語られている。そして読み進むほどに、「実はこれはすべて本当の話だと見せかけた小説なのではないか」と訝しくなってくる。さすがに柴田はそういうレベルの低いことは書いてなくて、オースターの背後には「世界は我々の予測を裏切りつづける。世界に定まった意味はない」という世界観があるのだと解説している。

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Monday, March 15, 2004

『行儀よくしろ。』清水義範(書評)

【3月15日特記】 読み始めてすぐに「この書評を書く資格は自分にはないのではなかろうか」と思ったのだが、読み終えてみて果たしてその通りだった。

実を言えば僕は清水義範という人をずっと馬鹿にしていた。

何であったか憶えていないのだが、本屋で立ち読みした本がとてもつまらなかったからである。ところが2003年の6月に『日本語の乱れ』を読んで認識を改めたのである。この本はとても面白かった。そして、僕が普段思っていること考えていることをそのまま、しかも極めて上手に書いてくれたような気がした。

それでこの本を手に取ったのであるが、これは僕の思っていること考えていることに近いかどうかどころか、僕の思っていること考えていることそのものである。

だから読んでいて反発がない。驚きもない。いや、ことさら共感することさえない。とても他人が書いた文章だとは思えない。まるで自分が書いた文章を読み返しているみたいにスラスラと読めてしまう。

本というものはもう少し引っ掛かる部分がないと面白くないのである。

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Thursday, March 11, 2004

『王国 その2 痛み、失われたものの影、そして魔法』よしもとばなな(書評)

【3月11日特記】 前作『アンドロメダ・ハイツ』を読んでしまったので、行きがかり上読まざるを得なかったのだが、結構しんどかった。

読み始めてすぐに思ったのは、「こういうコミュニケーション形態というのは非常に危ういな」ということだった。感覚的で、神秘主義で、詩のようでもあり、信仰にも似ている。頭で解るよりも肌で感じることのほうが大切だ、なんてまとめ方もできるかもしれないが、これでは「わからない人にはわからない」コミュニケーションなのである。

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Saturday, March 06, 2004

『ためらいの倫理学』内田樹(書評)

【3月6日特記】 まえがきにこう書いてある。

もとがホームページ日記だから、「批評されている当の本人は読むはずがない」という前提で書かれているので、読んだらご本人が激怒しそうなことがいろいろ書いてある(現にここで言及された多くの方が激怒されて、私はその後ずいぶん世間を狭くしてしまった)。(中略)文庫化のせいでますます世間が狭くなってしまうであろうが、これも身の不徳のゆえだから致し方ない。

こういうところがこの人の魅力なのだろう。とてもかわいい。そして潔い。

論旨は明快で、あとがきに自分で書いているように「ほとんど『同じこと』を、手を換え品を換え、執拗なまでに繰り返し主張している」。その主張がどんな主張であるのかまで自分で「解題」しているが、これから読む人のためにここでは書かない。ひとつだけ言うと、その主張のエッセンスは「ためらいの倫理学」というタイトルが見事に表現している。

もし僕の書いたものが内田に徹底的に批判されようとも、僕なら彼の世間を狭からしめようとは考えないだろう。だって小気味良いんだもの。面白くて説得力がある。

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