『廃墟の歌声』ジェラルド・カーシュ(書評)
【2月7日特記】 おもしろい本だ。
仰天するほどの物語ではない。読みながらニヤニヤする程度。帯には「語り/騙りの天才」とあるけれど、確かに語りの妙/騙りの妙は感じられるのだが、天才という形容は少しニュアンスが違うような気もする。むしろ「語り/騙りの芸人」とでも言ったほうが良いのではないか。
多分この人は本質的にB級エンタテイナーなのだと思う(作品の出来がB級だと言うのではないので、念のため)。まあ、いずれにしてもおもしろい。
時代や場所などの設定が結構ばらついているので作品ごとの印象もかなり違う。僕はホラーめいたゴシック調の物語よりも、世紀の大泥棒(あるいは単なる大法螺吹き)カームジンのシリーズ4篇のほうが楽しめた。暗黒や怪奇の線を狙うよりも、こういうあっけらかんとした法螺話がとても楽しくて良いような気がする。
特に西崎憲が訳した「乞食の石」と「無学のシモンの書簡」の2篇は明らかに言葉を選んで衒いすぎで、ひょっとしたら原作の雰囲気を壊してしまっているのではないかという気さえした。まあ、この手の暗黒・怪奇の線が好きな人もいるだろうし、そういう人が手がけるとこういう訳になるのかもしれない。
訳の色合いがこれだけ割れてくるのも、この作家の多才さの証明なのだろう。
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