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Sunday, February 22, 2004

『蹴りたい背中』綿矢りさ(書評)

【2月22日特記】 『インストール』でデビューした時から気になっていたのだが却々読む勇気が湧かなかった。

年を取ってくると、若い作家が書いた小説や若い読者に受けている小説は、読んでも理解できないのではないかという恐怖感を抱いてしまう。芥川賞を受賞したことで初めて「自分にも読めるかな」という気になった。

何故なら、芥川賞の選考委員にはそんなに若い人はいないはずである。イメージとしては、文藝賞の審査員より頭が固そうでもある。ならば、これはオジサン・オバサンにも理解できる小説ではないだろうか、という心理が働いたのである。では、どちらを先に読むかということになるが、安全策を踏んで芥川賞受賞作から読むことにした。

最初のページを開くといきなり飛び込んでくる「さびしさは鳴る」という暗喩。そこにプリントを千切る実音を重ねてくる。「なるほど、こういう技巧に走るタイプか」と思う。かなり考えたんだろうな、この書き出し。ま、鼻につくけど悪くない。

ただし、こういう表現上の技巧を花火みたいに立て続けに打ち上げる訳には行かない。読むほうだって次第に馴れてしまう。それから先は言葉遣いの巧さとは違う領域で真価を問われることになるのである。

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Wednesday, February 18, 2004

『太陽の塔』森見登美彦(書評)

【2月18日特記】 粗はあるが面白い。が、果たしてみんなに理解されるのだろうか?

この面白さは、自ら京大生であるか、あるいはかつて京大生であったか、はたまた複数の京大生を手許に並べて観察する機会のあった者にしか解らないかもしれない。京大生がみんなこうだという訳ではないが、こういう京大生っているよね、と言うか、いかにも京大生っぽいと言うか、確かにたまにこんな京大生はいる、という按配で、多分これは京大生にしか書けない。

しかし読んでいて心配になったのは、この作家、果たして次の作品が書けるのだろうか、ということである。ここまでコアな分野に入り込んでしまうと、例えば「河内のオッサンの唄」1曲のヒットで終わってしまったミス花子や、「わかるかな、わかんねえだろうな」のギャグでほんの何ヶ月かだけスターだった松鶴家千とせの二の舞になるのではないかという危惧を感じる。

この作家がやろうとしたことは自らを戯画化することであり、人生に臨む態度としては極めて真っ当であり、崇高でさえある。極端にデフォルメした京大生を描きながら、実は青春期のエッセンスを普遍化することに成功しており、上出来の青春小説だと言って良いのではないだろうか。

青春期の一途さと、その裏返しの独善性とが綯い交ぜになって、なかなか可笑しくて哀しいお話になっている。「太陽の塔」という着想も良い(実際に見たことある人にしか解らないだろうけど…)。

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Thursday, February 12, 2004

『貴婦人Aの蘇生』小川洋子(書評)

【2月12日特記】 『博士の愛した数式』で小川洋子を知った。それが面白かったので遡ってこの作品を読んでみることにした。

最初に思ったことは、『博士の愛した数式』と同工異曲である、ということである。

タッチも設定も似通っている。『博士の…』では数学を愛する老数学者、『貴婦人A』では毛皮にAの飾り文字を刺繍する老婦人。そして両作ともに語り手の女性がいて、『博士の…』では語り手の息子(頭の形がルート)、『貴婦人A』では語り手の恋人(強迫性障害を持つ)という、ともに個性の強い共演者を配してある。

ただ、『博士の…』の場合は非常に設定が巧みで、もうそれ以上何もすることがないように見えたのに対し、『貴婦人A』の場合は、この作品を終えるためにはもう一つ何か仕掛けが必要だなという気が(読んでいる途中で)した。

つまり、『博士の…』のほうは、この奇妙かつ絶妙な設定さえあれば、作者の造形した人物が勝手に動き回ることによって物語は勝手に進行し、もうどうとでも終われるように思われたが、『貴婦人A』のほうは何かもう一つ「かぶせて」行かないと物語が終結するだけのエネルギーに欠けるような感じがあった。

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Saturday, February 07, 2004

『廃墟の歌声』ジェラルド・カーシュ(書評)

【2月7日特記】 おもしろい本だ。

仰天するほどの物語ではない。読みながらニヤニヤする程度。帯には「語り/騙りの天才」とあるけれど、確かに語りの妙/騙りの妙は感じられるのだが、天才という形容は少しニュアンスが違うような気もする。むしろ「語り/騙りの芸人」とでも言ったほうが良いのではないか。

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