『約束の冬』宮本輝(書評)
【10月4日特記】 約10年ぶりに宮本輝を読んだ。自分のHPにも書いたのだが、要するに飽きてしまって読まなくなったのである。それでも、飽きるまでに随分彼の著作を読んだので、何と言うか、読む前から解っているのである──彼が筋回しの巧い作家であるということは。
で、読んだ。面白かった。
ただ、全体にべタッとしたところがやはり少し気に食わない──多分そういう面に嫌気が差して読まなくなったのかもしれない。
立派な人がたくさん登場する小説である。もちろん立派な人といっても完全無欠ではない。
主人公の留美子は若い女性らしい迂闊なところがあるし、もうひとりの主人公である桂二郎は、さすがに50代の分別を備えているが、図らずも肉欲に嵌りそうになってしまう。でも、みんな前向きで、真摯で、なんか読者に希望を与えてくれる人たちであり、希望を与えてくれるストーリーなのである。この点は宮本輝のいつまでも変わらない特徴なのではないか。
話の途中から新しい登場人物が出て来ては新しいストーリーを展開するということが繰り返されるのだが、新しい人物が登場するたびに、読んでいて「流れ」が止まってしまうという恨みがある。
あとがきを読んで判ったことだが、これは新聞に連載された小説であり、作者も結末まで想定せずに書き始めたらしい。結果として巧くまとまった感はあるが、読んでいてやはり「考えながら書いている」のが判ってしまうところが惜しい。前述したように、作者が考えるたびに「流れ」が止まるのである。
それと設定にやや安易なところもある(「生きる」ということの対極として多くの人の「死」を描いているのであるが、それにしても癌になる人が多すぎやしませんか?)。
でも、まあ、中年になった宮本輝らしい、よくできた小説である。
あなたがもし宮本輝の古くからのファンであるなら、きっとこの小説にも満足できるでしょう。もし、初めて宮本輝を読むのであれば、この本ではなく、もう少し初期の作品から手をつけるのが良いかもしれない。
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